M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2022年12月1日更新事業承継
優先株とは?用語の意味、普通株との違い、メリット・デメリットを解説
優先株とは種類株式の一つで、配当を優先的に受け取れるなど、ある特定の優先権が付いている株式です。この記事では、優先株の必要性やメリット・デメリット、配当の受取と分配方法、普通株に転換する際の注意点などを詳しく解説します。
優先株とは
会社にとって株式は非常に重要で、株主がいなければ、会社を経営していくための資金調達を実施できません。株主は会社に投資し、株式を取得するかわりに配当や議決権を得ます。
しかし、全ての投資家が経営に参加したいと思っているわけではなく、議決権よりも確実な分配を望むことが多いです。そのような株主のために用意されているのが優先株です。
優先株は優先配当など、ある特定の事項について優先権が付いた株式をいいます。どのような優先権があるのかは後述します。
優先株が必要な理由とは
優先株が必要とされる主な理由は以下のとおりです。
- 投資回収に対する株主の優先権の確保
- ストックオプションの実効性の確保
- 持ち株比率の希釈化の防止
①投資回収に対する株主の優先権の確保
万が一、事業が失敗して投資を回収できなくなると、株主はそのリスクを恐れるあまり、投資を躊躇するおそれがあります。そこで、事業が失敗しても、残った資産のうち投資した額を優先的に回収できる権利を付与した優先株が必要となるのです。
優先株の発行により、上記の投資リスクを下げることが可能となります。最近では、M&Aで活用される例も多く、M&Aによる売却対価を株主に優先的に分配するようにしているケースがあります。
②ストックオプションの実効性の確保
ストックオプションとは、役員や従業員に対するインセンティブ支給の目的で、主に無償で付与する新株予約権のことです。この場合、従業員は行使価格を支払って普通株を取得し、その株式を売却して利益を得ることが可能です。
特に、スタートアップの企業で多く活用されています。創業時は資金不足で現金でのインセンティブの支給が難しい中で、従業員のモチベーションアップを図る目的で利用されることが多く見られます。
ただし、ストックオプションには、税制適格という要件があるため注意しましょう。この要件に合わないと重い税金を課せられます。
ストックオプションの付与の際に普通株を発行していると、従業員は行使価格として、その株主と同額以上の金額を支払う必要があるのです。その支払額が大きくなると、インセンティブの意味がなくなるおそれがあります。
このリスクを避けるには、株主に普通株式より高い金額で優先株式を発行し、普通株式の価格を下げます。つまり、税制適格の要件に沿った優先株式を発行して新株予約権の行使価格を下げ、インセンティブとしてのストックオプションの効果を維持できるのです。
③持ち株比率の希釈化の防止
資金調達により株主が増えると、会社の持ち株比率が下がる場合があります。そこで、議決権に基づく経営への株主の関与を最低限に抑え、持ち株比率を最大限維持する方法として、優先株の発行が活用されています。
優先株の発行価格を最大限高くし、発行株式数を最大限少なくして、持ち株比率の低下を抑えられるのです。ただし、優先株の発行価格は企業価値(バリュエーション)に比例して高くなることから、企業価値に基づいて決定する必要があります。
優先株に付与する優先権とは
優先株によって優先権が付与できる主な項目は以下のとおりです。
- 剰余金の配当
- 残余財産の分配
- 取得請求権・取得条項
- 役員選任権
- 拒否権
①剰余金の配当
株主が受ける剰余金の配当に優先権を付与すると、普通株の株主よりも多くの配当金を受け取れる可能性があります。起業したばかりのベンチャー企業のように、配当する余裕がないような場合には、配当自体に優先権を付与しない場合もあります。
②残余財産の分配
残余財産の分配とは、会社が倒産や破綻した場合に、残った資産を株主などに分配することをいいます。残余財産の分配に優先権が付与された優先株を持っていると、優先して残余財産の分配を受けられます。
しかし、このような場合には会社が多くの負債を抱えていることが多いため、株主に分配できないことが多いでしょう。必ずしも予定額が全額戻ってくるとは限らないため、注意が必要です。
③取得請求権・取得条項
取得請求権とは、株主が自分の株式の買い取りを会社に請求できる権利をいいます。買い取りの対価の支払いは、株主との合意があれば現金に限らず社債や普通株の付与でも可能です。
取得条項とは、一定の場合に会社が株主から強制的に株式を取得できる権利をいいます。日本では、上場目的や配当コストを下げる目的などで、これらの方法が活用されています。
④役員選任権
役員選任権とは、種類株主総会で決議する会社において、役員の選任に参加できる権利をいいます。種類株主総会は一般の株主総会とは異なるものです。
しかし、役員選任権に優先権を付与すると、種類株主総会で決議しなければならず、一般の株主総会に加えて実務上の負担がかかるといった理由から、あまり活用されていません。
⑤拒否権
拒否権とは、株主総会や取締役会の決議事項について、種類株主総会での決議を求められる権利をいいます。しかし、この権利によって、役員の選任やM&Aの決定など、株主総会や取締役会の承認を得た事項でも、種類株主総会の決議がなければ実施できなくなってしまうのです。
スピーディな会社経営の大きな障害となるおそれがありますので、拒否権の付与は慎重に検討しましょう。
優先株のメリット・デメリット
優先株には、企業と投資家それぞれにメリット・デメリットがあるため、活用する際には事前に注意しておきましょう。企業側・投資家側それぞれにわけてメリット・デメリットを解説します。
企業側のメリット・デメリット
企業側のメリットとしては、比較的短時間で効率的に議決権を分散させず資金調達できる点です。経営に干渉されることなく、資本を強化できるので経営の安定を図れます。また、買収される可能性が低くなるのもメリットのひとつです。そのほか、株主の議決権を制限することで、スピーディな意思決定ができるようになります。
対してデメリットとしては、種類株主総会の開催など会社にとって発行時・発行後の運用上の負担が大きい点が挙げられます。また、日本では資金繰りが悪い会社が発行するというネガティブなイメージが強いです。
これらが影響して、国内では優先株はあまり浸透していないため、一般投資家に向けて優先株を発行しても、買い手がつかないこともあるでしょう。
投資家側のメリット・デメリット
投資家側のメリットとしてまず挙げられるのは、優先的な配当を受けらることです。参加型優先株式の場合、優先株式の配当だけでなく、普通配当も受け取れます。普通配当がない場合も優先配当は受け取れ、安定的に配当が得られる点がメリットです。
そのほかにも、株主優待が受けられる点や、倒産した場合に優先的に資産を受け取れる点もメリットといえるでしょう。
対してデメリットとしては、優先株は市場での取引が少ないため上場していなければ自由に売却できない点があります。それ以外にも、議決権がもらえないため経営に参加できない点もデメリットのひとつです。
優先株の発行時における注意点
優先株は一見すると、あまりリスクなく資金調達できるように思われます。しかし、優先株の発行時に、会社と株主との間で配当に関するルールを取り決めておかないと、結果として配当コストがかさみ、資金調達した意味がなくなってしまうおそれもあるのです。
そのため、優先株を発行する前に、特に以下の点について会社にとってベストな条件を決定したうえで、優先株を付与する株主と話し合う必要があります。
- 年間の配当率
- 配当の受取方法
- 配当の分配方法
- 種類株主総会の決議事項の範囲(議決権の範囲)
①年間の配当率
優先株は普通株よりも優先的に配当が得られますが、この配当率は事前に会社と株主との間で取り決めておく必要があります。配当率を決めておかないと、後になって株主とトラブルになるおそれがあります。
一般的に、優先株には普通株の3〜10%程度の上乗せを設定されることが多いです。年間の配当率であるため、1年ごとに設定する必要があります。
②配当の受取方法
優先配当の受取方法には、以下の2つがあります。
- 累積型
- 非累積型
累積型とは、配当金を分配するだけの利益が会社にない場合に、一定額に達するまでは配当金を受け取らずに累積しておく配当の受け取り方です。例えば、株主が8%の利回りになるまで配当を累積しておくと設定すると、8%の利回りになるまでは配当金が受け取れません。
累積型の場合には、配当コストが高くなりやすいでしょう。これに対して、非累積型は、定期的に配当を受け取ることが可能です。非累積型は配当コストを抑えやすいといえます。
どちらの配当方法を選択するかは株主によります。会社にとっては累積型を選択されると、利益が出た時に一気にまとめて配当金を支払らわなければならないため、注意しましょう。
③配当の分配方法
配当の分配方法には、以下の3つがあります。
- 参加型
- 非参加型
- 制限参加型
参加型は、優先的に配当を受けた後に、さらにプラスで普通株と同じ配当を受けとれる方法です。これに対して、非参加型は優先株の配当以外の配当が受けられない方法です。
制限参加型は、優先的に配当を受けた後に、普通株の配当の一部に制限して追加で配当を受ける方法です。優先株を選択する投資家のほとんどが配当を目的としています。
優先株を付与する株主との間で、この分配方法を事前に決めておかないと、後々トラブルになる可能性があります。
④種類株主総会の決議事項の範囲(議決権の範囲)
優先株を有する株主が議決権を持つ種類株主総会の決議事項を広くしてしまうと、議決権を制限してスピーディな意思決定により経営を行うはずが、かえってできなくなるおそれがあります。
そのため、あらかじめ種類株主総会の決議事項を制限し、優先株を持つ株主の議決権の範囲を必要最低限にしておくことが必要です。
優先株から普通株に転換する際の注意点
優先株の取得請求権や取得条項には、優先株から普通株に転換を請求できる権利も含まれます。転換する際に注意するポイントは、主に以下のとおりです。
- 転換の条件
- 配当コスト
- 転換のタイミング
①転換の条件
優先株から普通株に転換すると配当金額が減少します。普通株への転換を請求するほとんどの株主は、会社の議決権の獲得を狙っています。なぜなら、優先株よりも議決権のある普通株の方が、市場では高額で取引されるからです。
普通株の議決権をコントロールしてスピーディな経営を維持するためには、どのような場合に優先株から普通株の転換を認めてよいのかをあらかじめ十分に検討したうえで、転換の条件を設定する必要があります。
普通株への転換により普通株の議決権が増えると、優先株による種類株主総会の議決権が減り、種類株主総会の存在意義が薄くなります。種類株主総会の運用の手間は依然として残ってしまう点にも注意しましょう。
②配当コスト
会社から、優先株を普通株に一斉に転換する場合もあります。優先株があると、会社は配当金を最優先しなければならず、配当コストの負担が増すためです。
優先株の株主が多ければ多いほど、配当金が利益を圧迫するおそれが高くなります。それでは本末転倒となってしまうため、普通株の議決権の付与よりも配当コストを重視して、普通株に変更する会社も多くあります。
優先株による資金調達と将来の配当コストのバランスをあらかじめよく精査しておく必要があるでしょう。
③転換のタイミング
会社が優先株を普通株に転換するタイミングは、業績が好調のときが一番よいでしょう。業績が不安定な時期は株価が低迷しているため、その時に普通株を増やすと、他の株式の価格も下がります。
ほかにも、優先株自体を消却する方法もあります。会社が自ら優先株を取得してから消却することで、株価の下落を避けられるのです。
優先株の具体例
「おーいお茶」などで知られる伊藤園が優先株式である「第1種優先株式(25935)」を発行しています。配当金が普通株式に対して1.25倍の額が受け取れて、普通株式への配当がない場合も、優先株式に対しては1株あたり15円が優先配当として支払われることになっています。
概要は以下のとおりです。
手続き・照会内容 | 優先株式 | 普通株式 |
証券コード | 25935 | 2593 |
議決権 | なし(発生する場合あり) | あり |
配当 | 優先配当 普通配当額×125% 未払い分は累積 |
普通配当 累積しない |
残余財産分配権 | 普通株式と同等※累積未払配当がある場合は、優先株主に不足分が支払われます。 | ー |
普通株式への転換権 | 株主の意向による転換権はなし | ー |
単元株 | 100株 | |
株主優待 | 100株で1,500円相当、1,000株以上なら3,000円相当の「自社商品詰め合わせ」 |
優先株のまとめ
優先株は、会社と株主双方にメリットがある一方で、デメリットもあります。目先の資金調達だけではなく今後の配当コストなど将来的に発生する事項についても踏まえたうえで、ベストな条件を設定しましょう。今回の要点をまとめると以下のとおりです。
・優先株とは
→ある特定の事柄について優先権が付された株式
・優先株が必要な理由
→会社側と投資家側の双方にメリットを生むため
・優先株に付与される優先権
→剰余金の配当、残余財産の分配など
・優先株の企業側のメリット・デメリット
→迅速で効率的な資金調達ができる、株主は優先配当を受けられる点などがメリット
→発行時・発行後の運用上の負担が大きい点などがデメリット
・優先株の投資家側のメリット・デメリット
→優先的に配当が受けられる点がメリット
→自由に売却できない、議決権をもらえないなどがデメリット
・優先株の発行時における注意点
→配当率、配当の受取・分配方法などを事前に決めておく
・優先株を普通株に転換する際の注意点
→転換の条件、配当コスト、転換のタイミング
M&A・事業承継のご相談なら24時間対応のM&A総合研究所
M&A・事業承継のご相談は成約するまで無料の「譲渡企業様完全成功報酬制」のM&A総合研究所にご相談ください。
M&A総合研究所が全国で選ばれる4つの特徴をご紹介します。
M&A総合研究所が全国で選ばれる4つの特徴
- 譲渡企業様完全成功報酬!
- 最短49日、平均6.6ヶ月のスピード成約(2022年9月期実績)
- 上場の信頼感と豊富な実績
- 譲受企業専門部署による強いマッチング力
M&A総合研究所は、M&Aに関する知識・経験が豊富なM&Aアドバイザーによって、相談から成約に至るまで丁寧なサポートを提供しています。
また、独自のAIマッチングシステムおよび企業データベースを保有しており、オンライン上でのマッチングを活用しながら、圧倒的スピード感のあるM&Aを実現しています。
相談も無料ですので、まずはお気軽にご相談ください。
あなたにおすすめの記事
M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
近年はM&Aが経営戦略として注目されており、実施件数も年々増加しています。M&Aの特徴はそれぞれ異なるため、自社の目的にあった手法を選択することが重要です。この記事では、M&am...
買収とは?用語の意味やメリット・デメリット、M&A手法、買収防衛策も解説
買収には、友好的買収と敵対的買収とがあります。また、買収に用いられるM&Aスキーム(手法)は実にさまざまです。本記事では、買収の意味や行われる目的、メリット・デメリット、買収のプロセスや...
現在価値とは?計算方法や割引率、キャッシュフローとの関係をわかりやすく解説
M&Aや投資の意思決定するうえでは、今後得られる利益の現時点での価値を表す指標「現在価値」についての理解が必要です。今の記事では、現在価値とはどのようなものか、計算方法や割引率、キャッシ...
株価算定方法とは?非上場企業の活用場面、必要費用、手続きの流れを解説
株価算定方法は多くの種類があり、それぞれ活用する場面や特徴が異なります。この記事では、マーケットアプローチ、インカムアプローチ、コストアプローチといった株価算定方法の種類、株価算定のプロセス、株...
赤字になったら会社はつぶれる?赤字経営のメリット・デメリット、赤字決算について解説
法人税を節税するために、赤字経営をわざと行う会社も存在します。しかし、会社は赤字だからといって、必ず倒産する訳ではありません。逆に黒字でも倒産するリスクがあります。赤字経営のメリット・デメリット...
関連する記事
会社分割すると従業員の契約はどうなる?労働契約承継法や保護制度を徹底解説!
多くの企業が会社分割を検討しておりますが、トラブルに発展しないように従業員への対応に配慮する必要があります。今回は会社分割を検討している企業に向けて、会社分割における従業員の契約や手続きの流れな...
M&AにおけるITデューデリジェンス(ITDD)を解説!目的や調査項目は?
ITデューデリジェンス(ITDD)はM&Aにおいて欠かせず、明確な目的を踏まえた対応が求められます。今回はM&Aを検討している企業に向けて、ITデューデリジェンス(ITDD)につ...
人事デューデリジェンス(人事DD)とは?目的から調査項目まで徹底解説!
M&Aを実施する際に人事デューデリジェンス(人事DD)は重要です。丁寧に手続きを進めないとM&Aで高い効果は得られません。今回はM&Aを検討している企業に向けて、人事デュ...
二段階買収の手続き方法を徹底チェック!目的やメリット・注意点は?
二段階買収(Two-Tier Takeover Strategy)は、買収側が売却側の少数株主から株式を買い集める際に有益な手法です。当記事では、実施目的や手法、メリットやデメリット、過去事例や...
事業承継の相談先はどこがいい?選び方から注意点まで徹底チェック!
近年は中小企業の経営者の高齢化に伴い、積極的に事業承継を行って生き残りを図る企業が増えています。 事業承継には複雑な手続きが多いため、信頼できる相談先の選択が重要です。そこで本記事では事業...
M&A後の退職金や給与はどうなる?節税方法や注意点まで徹底チェック!
M&Aで退職金を活用すると、節税効果が得られます。当記事では、退職金を利用したM&Aの節税方法やメリット、注意点を交えながら、退職金の扱い方や税務について解説します。従業員や役員...
M&Aにおける人事DDの目的や調査範囲を徹底チェック!費用・注意点は?
人事DD(デューデリジェンス)は、買収側がM&Aの実施後に受ける損失を最小限に抑えるために必要な調査です。当記事では、調査が行われる目的や調査範囲、かかる費用や注意点を踏まえながら、人事...
100日プランとは?PMIの概要・重要性・策定のポイントまで徹底解説!
M&Aを実施する際にはPMIの工程が重要となり、100日プランはPMIの成功に大きな役割を果たします。今回はM&Aを検討している企業に向けて、100日プランの概要・重要性・策定の...
管工事会社の事業承継の動向や事例を徹底解説!メリットや費用相場・注意点は?
管工事会社業界は将来的な需要増加が見込める半面、人材不足や後継者不在といった問題が深刻です。当記事では、過去の事例を取り上げながら、管工事会社(管工事業界)の事業承継について解説します。事業承継...
株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。