M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2024年11月19日更新事業承継
病院・クリニックの事業承継マニュアル!手順・トラブル・注意点・事例
病院・クリニックは公共性が高く特殊な事業であり、事業承継せずに廃業してしまうと地域・患者に多大な損失を与えます。病院・クリニックの事業承継を成功させるためにも、M&A仲介会社のサポートを得ながら手続きを進めましょう。今回は、病院・クリニックの事業承継について解説します。
目次
病院・クリニックが抱える事業承継の現状
ここでは、病院・クリニックが抱える承継/継承問題として、以下3つを取り上げます。
経営者が高齢化を迎えている
令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況
出典:https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/22/index.html
病院・クリニックでは経営者の高齢化が進んでおり、厚生労働省の調査では2022年における病院・診療所の医師平均年齢は50.3歳となっています。
同調査の年齢層別では30〜39歳が20.4%で最も割合が高く、次いで40~49歳と50~59歳が20.3%という結果です。また、60~69歳も18.1%であり、70歳以上の割合も11.1%となっています。
医師の高齢化は年々進んでおり、事業承継の検討・実施が必要な一方で、後継者不在に悩む病院・クリニックが多いのが実情です。
後継者の不在
帝国データバンク「全国「後継者不在率」動向調査(2023 年)」
出典: https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p231108.pdf
近年、国内中小企業の後継者不在率は改善傾向にあり、帝国データバンクの調査によれば2023年の後継者不在率は53.9%となっています。
以前に比べ、M&Aによる事業承継が増えたことなどが後継者不在率の改善につながっていると考えられますが、業種中分類別にみると「医療業」は65.3%と平均よりも高い割合です。
これは、医療業では後継者が医師に限定されることも一つの要因と考えられ、廃業という選択が難しい病院・クリニックでは後継者問題の解決が課題のひとつとなっています。
M&Aによる事業承継をご検討の場合は、ぜひM&A総合研究所にお任せください。M&A総合研究所では、専門的な知識や経験が豊富なアドバイザーが、M&Aによる事業承継をフルサポートいたします。
料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です。(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)
相談料は無料となっておりますので、病院・クリニックの事業承継を検討している場合にはお気軽にご相談ください。
利用している患者を守る必要がある
もともと病院・クリニックの廃業は、簡単に実施できるものではありません。病院・クリニックは体調に不安を抱える患者が利用する施設であり、安易に廃業してしまうと利用する患者を路頭に迷わせるおそれがあります。
また、病院・クリニックは非常に公共性が高い施設であり、地域住民のコミュニティとしても機能しています。特に人口減少が著しい地方では、地域の病院・クリニックが廃業してしまうと無医村のような状態に陥ってしまうケースもあります。
以上のことから、後継者が見つからず経営者が引退するような状態に陥ったとしても、病院・クリニックの事業承継は成功させなければなりません。
病院・クリニックの事業承継に見られる特徴
経営者であればいずれは引退の時期を迎えるため、事業を後継者へ引き継ぐ必要がでてきます。事業承継ができなければ廃業という選択肢しかありませんが、病院・クリニックは公共性が高く、簡単に廃業できるというわけではありません。
病院・クリニックも適切なタイミングで後継者へ事業を引き継ぐことが重要ですが、一般的な株式会社とは異なる点が多いため注意が必要です。
病院・クリニックの事業承継(医業承継)とは
病院・クリニックの事業承継は「医業承継」といい、すでに開業している病院やクリニックを現経営者の子や親族、第三者が引き継いで事業を継続することを指します。
一般的な株式会社でも経営者が引退するタイミングで事業承継が行われますが、両者の大きな違いは医業承継の後継者は医師に限られる点です。
医業承継は現経営者の親族に引き継ぐ「親族承継」と第三者の医師や医療法人(譲渡側が医療法人の場合)へ引き継ぐ「第三者承継」の2つがあります。
親族承継
病院・クリニックの親族承継とは、現経営者の子など親族でかつ医師免許を持つ者を後継者として、事業を引き継ぐ方法です。中小規模の病院・クリニックでは最も一般的な承継方法であり、多く活用されています。
第三者へ承継
病院・クリニックの第三者継承は、M&Aを活用して第三者の医師や医療法人(譲渡側が医療法人の場合)へ引き継ぐ方法です。
後継者候補となるのは、たとえば自院で働く医師や専門医、開業希望の医師などが考えられます。また、譲渡側が医療法人の場合は、別の医療法人へ事業を引き継ぐことも可能です。
第三者への承継は、現経営者の親族に後継者候補がいない場合でも活用できる方法であり、事例としてはほとんどありませんが知事の許可が得られれば、後継者が医師免許がない場合も理事長となることで事業を引き継ぐことができます。
病院・クリニックの事業承継動向
病院・クリニックの事業承継においては、経営者自身の周囲から後継者を見つけて事業を託す従来型の事業承継ではなく、M&Aによる事業承継を選択した方が良いケースがあります。この背景には、病院・クリニック業界が抱える人手不足問題が深く関係しています。
昨今の病院・クリニック業界では、労働条件の厳しさなどを理由に医師・看護師の人材不足が深刻化しており、人員を確保するためにさまざまな病院・クリニックが奔走しています。
特に夜勤が必要な診療科を持つ病院・クリニックなどでは人手不足が大きく目立っていますが、医師や看護師の確保は決して簡単なものではありません。多くの病院・クリニックが求人に力を注いでいるため、競争率が高いうえに研修・育成にも多くの時間がかかります。
中小規模・零細規模の病院・クリニックでは、投資できるコストの限界もあって、十分な数の医師・看護師を確保できないケースは珍しくありません。ただし、事業承継M&Aによって大手に買収されると、自身の病院・クリニックの人手不足を解消できる可能性が高まります。
そのため、最近では、人手不足のような問題を放置したまま事業承継を実施するよりも、M&Aによる事業承継で問題を積極的に解決させて病院・クリニックの存続を目指す動きが目立っている状況です。
病院・クリニックを親族承継するメリット・デメリット
現経営者の子など親族を後継者として病院・クリニックを引き継ぐ場合、メリットだけでなくデメリットも把握しておくことが重要です。ここでは病院・クリニックを親族承継するメリット・デメリットについて説明します。
メリット
現経営者の子など親族を後継者とするメリットは、周囲からの理解が得やすいこと・事業承継の準備期間が十分確保できることの2つがあります。
外部から後継者候補を探す場合、親族から反対される可能性もありますが、現経営者の子や親族であれば既定路線として受け入れられやすく、サポートも受けやすい点がメリットです。
また、あらかじめ現経営者の子や親族を時期後継者にすることが決まっている場合、事業承継の計画に合わせて後継者育成などの期間を設けることができます。十分な準備期間を設けることでスムーズな引継ぎが可能ととなるのは、親族内承継の大きなメリットです。
デメリット
病院・クリニックの親族承継でデメリットが生じうるのは、後継者が現在の経営方針から大きな改変を希望する場合です。
たとえば、現経営者の子が後継者となる場合、新しい経営方針や経営理念での医院運営を考えれば、現経営者との意見の違いから事業承継がうまくいかない可能性もあります。
また、急な経営方針や経営理念の改変により、スタッフが離職してしまったり、患者が離れてしまったりする可能性もあるでしょう。
新しい代へ事業を引き継ぐ際、医院の将来を考えて改変が必要な場合もありますが、いきなり大きな変化が伴うのはリスクも大きくなります。そのため、事業承継時から現経営者と後継者とで経営方針や経営理念などをしっかり確認しておくことが重要です。
病院・クリニックを第三者へ承継するメリット・デメリット
病院・クリニックの第三者へ承継は、現経営者に後継者がいない場合などに有用な選択肢となります。現経営者の周囲に後継者候補がいない場合でも活用できる方法ですが、デメリットもあるため事前によく検討することが重要です。
メリット
病院・クリニックで第三者承継を選択するメリットは、後継者候補がみつからない場合でも事業承継が行えること・幅広い範囲から適任者を探せること・譲渡対価を獲得できることの3点が挙げられます。
前述したように病院・クリニックの後継者不在率は他業種よりも高くなっており、現経営者の周囲に後継者がいないケースも少なくありません。第三者承継はM&Aによって他者へ事業を引き継ぐため、後継者不在でも活用できる点が大きなメリットです。
また、後継者候補を幅広いなかから探すため適任者がみつかる可能性が高く、自院で働く医師やスタッフの雇用も引き継ぐことができます。また、現経営者にとっては譲渡対価が獲得できる点も大きなメリットであり、引退後の生活費等に充当することが可能です。
デメリット
病院・クリニックの第三者承継を選択するデメリットとして考えられるのは、希望通りの相手先がみつかるとは限らないこと・手続きに時間を要するケースが多いことの主に2点です。
M&Aでは希望条件に合った相手先を探して交渉を進めていきますが、必ずしも事業承継を行いたいタイミングで相手先がみつかるとは限りません。また、希望条件がすべて叶うケースは少ないため、何かしら譲歩が必要となるのもデメリットといえるでしょう。
また、病院・クリニックは許認可制であり設立には行政からの許可が必要です。さらに非営利での運営が基本であるため、一般的なM&Aとは手続き面で異なる部分が多いので、細かな調整と交渉に時間がかかるのもデメリットとして挙げられます。
病院・クリニックの事業承継案件例
M&A総合研究所が取り扱っている病院・クリニックの事業承継案件例をご紹介します。
【九州地方】精神科病院の法人譲渡
創業から一定年数が経過しており、地域や行政からのネームバリューや厚い信頼があります。病床数は50床以上です。
エリア | 九州・沖縄 |
売上高 | 2.5億円〜5億円 |
譲渡希望額 | 1億円〜2.5億円 |
譲渡理由 | 後継者不在(事業承継)、事業存続に対する不安 |
【海外案件 / 所属ドクター200人以上】 タイ 私立病院運営
タイで40年近く続く、トップ病院の内の1社です。実績から国内での認知度は高く、リピート患者や口コミで流入する患者も多いです。
美容整形、デンタルケア、一般診療(内科、整形外科、小児科等)等、医療サービスを網羅的に提供しています。医院数は30ヶ所を超えています。
エリア | 海外 |
売上高 | 50億円〜100億円 |
譲渡希望額 | 希望なし |
譲渡理由 | 非公開 |
【医師・看護師多数在籍】関東の在宅療養支援クリニック
多数の医療機関と連携しており、安定した患者受け入れ態勢を確立しています。年間相談件数は600件以上で、うち400件ほど導入しています。
エリア | 関東・甲信越 |
売上高 | 5億円〜10億円 |
譲渡希望額 | 1億5,000万円 |
譲渡理由 | 戦略の見直し |
病院・クリニックの事業承継ニュース
病院・クリニックの代表的な事業承継ニュースをご紹介します。
日本郵政による広島逓信病院・京都逓信病院の各地域の医療法人への事業譲渡
2022年9月15日、日本郵政は、全国に展開する逓信病院のうち、広島逓信病院(110床)と京都逓信病院(99床)を2022年10月1日付で売却することを発表しました。
日本郵政はこれまで、地域医療連携や病床機能の見直し、人間ドック利用者の増加などの施策で病院事業の改善に取り組んできましたが、2020年2月以降、新型コロナウイルスの影響も重なり、2019年度には東京、京都、広島の3病院で計33億円の赤字を計上し、厳しい経営環境が続いていました。
今回の譲渡について、日本郵政は「これまで経営改善に努めてきたが、専門の医療法人に経営を委ねた方が、患者や地域医療にとってより良いと判断した」と説明しています。
民営化当初14拠点あった逓信病院は、売却や閉院が進み、この譲渡により東京逓信病院だけが残ることになります。
メドピアによるクラウドクリニックの完全子会社化
2022年5月12日、メドピアは、クラウドクリニック(東京都中央区)を完全子会社化する株式交換契約を締結しました。この株式交換では、メドピアが完全親会社となり、クラウドクリニックが完全子会社となる簡易株式交換方式が採用されています。
クラウドクリニックの株式1株あたり330,000円を金銭で交付し、さらにメドピアの普通株式21,350株を割当交付する予定です。
メドピアは、医師専用コミュニティサイト「MedPeer」を運営しており、クラウドクリニックは在宅医療事務をサポートするアウトソーシングサービス「クラウドクリニック」を提供しています。
このM&Aにより、メドピアは在宅医療関連サービスの充実とさらなる開発・提供を目指します。
病院・クリニックの事業承継における課題と注意点
ここでは、病院・クリニックの事業承継における課題について、以下の4つを取り上げます。
後継者の選定が難しい
いかなる業界・業種の事業承継であっても後継者の選定は重要なプロセスですが、病院・クリニックの事業承継ではとりわけ重要視されます。もともと病院・クリニックは、医療技術・保険制度・各種法律など多種多様な専門的知識がなければスムーズに運営できません。
そのため、後継者は、当然ながらスムーズに運営できるだけの高度な知識を備えている必要があります。そのほか、患者との関係性・地域への影響・緊急時の対応力など、多様なノウハウ・スキルも必要です。
一般的な事業承継では経営者の子供や親族を無条件で後継者に選定するケースも多いですが、必ずしも子供や親族に経営者としての適正があるとは限りません。もしも適正のない人物を経営者に据えてしまえば、経営がうまく機能せず、加えて病院・クリニックが廃業に陥ってしまうおそれがあります。
これらの点を踏まえると、身内に適性のある人物がいないと判断される場合、従業員や外部の人間など広い範囲から候補者を選びましょう。これはM&Aの活用シーンでも同様で、病院・クリニックの経営について責任を持って取り組んでくれる買い手に経営を託すことが重要です。
患者や従業員への影響に注意が必要
病院・クリニックの事業承継では、患者に影響が出る点にも注意しておく必要があります。事業承継では病院・クリニックの経営者が変わることから、新たな経営者によって経営方針や治療方針が大きく変更されるケースも想定されるためです。
これに伴い、患者の中では「これまで受けていた治療が受けられない」「診療科が変わるのではないか」という不安が生まれやすいです。特に事業承継M&Aであれば、別の医療法人が経営陣に入ることから、病院・クリニックの基本的な方針が一新する可能性もあり、従業員への影響も懸念されます。
M&Aは業界・業種に限らず労働環境や労働条件の大きな変更を伴う行為であり、反発する従業員も現れる可能性があります。M&Aの実施により、不満を持った従業員が立て続けに離職してしまうおそれもあります。
過去に報告されているM&Aの中には、従業員の大量離職が原因となりM&A自体が破断となったケースも見られます。したがって、事業承継およびM&Aの際には、患者・従業員に丁寧に説明できるだけの説得材料を準備したうえで慎重に進めることが重要です。
税務や財務などの知識が重要になる
病院・クリニックの事業承継では、税務や財務などの知識が重要になる点も意識しておきましょう。病院・クリニックの経営に携わる医師は税務や財務などの知識に疎い方が比較的多く、事業承継時の手続き進行で困ってしまうケースが多く見られます。
この傾向は事業承継M&Aでも同様であり、取引価格を決める交渉場面でうまく条件がまとまらず破談になるケースも少なからず報告されています。そのため、税務や財務などの知識に長けている専門家の知識を借りるだけでなく、経営者自身においてもある程度の知識を習得しておくことが重要です。
譲渡スキームの違い
病院・クリニックは株式を持たない組織であるため、株式の移転によって経営権を移行させることはできません。そのため、株式譲渡のように株式の移転を伴うスキームは使用することができず、病院・クリニックのM&Aで使用できるスキームは経営者(開設者)が個人か医療法人によって変わります。
個人経営者(個人による開設)の場合は事業譲渡スキームを用いて、病院・クリニックの承継を行うことが可能です。事業譲渡では経営権を譲渡して、その対価を受け取るかたちとなります。
経営者が医療法人(医療法人による開設)の場合、「出資持分譲渡」という方法を用い、併せて社員の入れ替えを行うケースが一般的です。
出資持分とは出資者が保有する財産権のことで、出資者は出資した額に応じて残余財産の分配や払戻しを受ける権利があります。出資持分譲渡の場合、承継する側がすべての出資持分を買い取り、経営権を引き継ぐかたちが一般的です。
行政への届出
個人経営の病院・クリニックが第三者承継を事業譲渡で行う場合、譲渡側の許認可などを譲受側へ引き継ぐことはできません。そのため、許認可については譲渡側・譲受側で各々手続きを行う必要があります。
下表は必要手続きをまとめたものですが、抜けや漏れがあると承継に支障をきたすため、事前によく確認しておくようにしましょう。
手続き対象者 | 届け出書類 | 内容 | 提出先 |
譲渡側 | 診療所廃止届 | 病院・クリニックでの診療行為を廃止するための届け出 | 保健所 |
保健所保健医療機関廃止届 | 保険請求(保険診療分)を停止する届け出 | 厚生局 | |
譲受側 | 診療所開設届 (10日以内に提出) |
病院・クリニックでの診療行為を行うための届け出 |
保健所 |
保健所保険医療機関指定申請書 | 保険請求(保険診療分)を行うための届け出 | 厚生局 |
そのほか、レントゲン機器がある場合は、エックス線装置設置届(譲渡側は廃止届)の提出も必要です。なお、医療法人が事業承継を行う場合、権利・義務は包括的に引き継がれますが、社員の入れ替えなどを行う必要があります。
個人経営(開設)と医療法人とでは必要な手続きが異なるため、専門家に相談しながら進めていきましょう。
保健医療機関コードの変更
個人経営(開設)の病院・クリニックを引き継ぐ場合、以降は経営者が変わるので保健医療機関コードの変更を行わなければなりません。
また、事業を引き継いだ直後は譲渡側の保健医療機関コードで診療報酬請求を行うため、レセプトコンピュータ(レセコン)と電子カルテのコード切り替えも必要です。取引のある電子カルテメーカーには事前相談しておくと、スムーズに引継ぎができトラブルも防ぐことができます。
なお、医療法人同士による病院・クリニックの承継では保健医療機関コードの変更はなく、引継ぎ前と同様に診療報酬を請求することが可能です。
遡及請求の取扱い
診療報酬は過去にさかのぼって請求することが認められており、これを遡及請求といいます。病院・クリニックの事業承継時も、前開設者の変更と新たな開設が同じ時期に行われ、患者の診療が継続しているなどの条件に該当する場合、遡及請求を行うことが可能です。
遡及請求が可能な条件および指定期日の取扱いについての詳細は、地方厚生局の公式ホームページに記載があるので、事前に確認しておきましょう。
病院・クリニックが持つ特殊性に注意が必要
事業承継M&Aの場合には、病院・クリニックが持つ特殊性に注意しておく必要があります。もともと病院・クリニックは、一般企業と違い株式が存在しないため、株式譲渡などの手法が活用できません。
そのため、病院・クリニックでは、理事会のメンバーの入れ替えや出資持分の買取などを通じて事業承継(M&A)を実施するケースが一般的であり、単純なM&Aの知識のみでは、病院・クリニックのM&Aをスムーズに進行できません。
そのため、病院・クリニックの事業承継M&Aを実施する際は、M&Aに精通する専門家の協力を得ると良いでしょう。
病院・クリニックを承継する流れ
本章では、開業医が病院・クリニックを承継する手順・流れをM&A手法ごとに紹介します。
親族内承継
医院を家族に引き継ぐときの主な手順は以下のとおりです。
- 何を大切にして医院を運営するか(理念)と、いつ引き継ぐかを決める
- 専門家に相談する:この手続きは複雑なので、プロの意見が役立つ
- 現在の医院の財産や運営状況をしっかり把握する
- これからどういう医院にしていくか、どのような診療を提供するかを考える
- それらを元に、具体的な引き継ぎ計画を作る
- 最後に、計画通りに引き継ぎを実施する
医院は地域でのニーズが大きいので、前の院長と新しい院長が一緒に、これからどう運営していくかを話し合うといいでしょう。さらに、医院の引き継ぎは通常のビジネスよりも手続きが難しいです。だから、家族であっても専門家に依頼することをおすすめします。
引き継ぎをするときは、前の院長も新しい院長も、必要な行政手続きを忘れずに済ませる必要があるため要注意です。
第三者への承継
医院を他の人に引き継ぐときのステップは次のようになります。
- まずは専門家に相談して、アドバイスをもらう
- 情報が漏れないように、秘密保持契約と顧問契約を結ぶ
- 必要な書類を提出する
- 医院がどれくらい価値があるのかを評価し、その結果をまとめた資料を作る
- 匿名で買い手を探す(ノンネーム登録)
- 買い手が見つかれば、一度顔を合わせて基本的な条件に合意する
- 買い手が医院に問題がないかしっかり調査する(デューディリジェンス)
- 最後に、双方が納得したら正式に契約を結び、引き継ぎを完了する
もし医院の買い手を探す際に会社の仲介を使うなら、最初にその仲介会社に相談します。問題がなければ、秘密保持契約と顧問契約を結び、そこから買い手とのマッチングが始まります。
顔を合わせて基本的な話を進め、最後に買い手が医院を詳しく調査します。何も問題がなければ、契約を結んで引き継ぎが完了します。
病院・クリニックの事業承継を成功させるポイント
病院・クリニックの事業承継は、一般的な株式会社などとは手続き面でも大きく変わるため、ポイントをおさえて進めていくことが重要です。ここでは、病院・クリニックの事業承継を成功させるポイントを説明します。
早い段階から準備を行う
病院・クリニックの事業承継を成功させるためには、早期からしっかり準備をしておくことが重要です。後継者を第三者から探す場合、事業承継を行う予定時期になってから着手しても間に合わない可能性があります。
また、経営状態が悪化してしまうと相手先がみつかりにくくなるため、事業承継を検討しはじめたら早期から準備を進めておくことが重要です。
急な経営者(院長)の交代は、在籍スタッフや患者にとってネガティブな印象を与えやすくなるため、しっかり準備を行って計画的に進めていく必要があります。
経営方針や診療スタイルの確認は入念に行う
医業承継を行ったことで経営方針の診察スタイルが急激に変われば、在籍スタッフや患者が離れてしまったり信頼関係が失われたりする可能性もあります。
現経営者と後継者(引継ぎ先)との経営方針や診療スタイルが違いすぎた場合、後継者(引継ぎ先)と在籍スタッフとの間に摩擦が生じやすくなるため、第三者への承継では特に注意が必要です。
第三者への承継を選択する場合は、事前に現経営者と後継者(引継ぎ先)調とで経営方針や経営理念、診療スタイルなどを話し合い、互いの認識をすり合わせておく必要があります。
専門家へ相談する
病院・クリニックなどの医業承継は、個人経営(開設)か医療法人かによって使用できる方法が変わり、事業の引継ぎに必要な手続きも異なります。
医業承継の手続きは複雑であり、不備や間違いがあると予定時期に引継ぎが完了できないだけでなく、利用している患者にも影響が及ぶ可能性が高いです。
特にM&Aによって第三者へ承継する場合は、相手先を探してから交渉を行う必要があります。M&Aの知識や財務・法務などの知識も必要となるため、早期に専門家へ相談してサポート下で進めていくことが成功のポイントです。
中小・中堅規模の病院・クリニックの場合、M&A仲介会社を活用するケースが多いですが、その場合は医業承継M&Aの支援実績や知識のある会社を選択すると成功率をあげることにつながります。
病院・クリニックの事業承継で起きたトラブル事例と対策
ここでは、実際に病院・クリニックの事業承継シーンにおいて発生したトラブル事例と対策について取り上げます。
①必要な行政手続きを怠ったことで生じたトラブル事例
病院Aの経営者は、自身の高齢化を理由に引退を決意しました。そこで病院の事業承継をサポートするM&A仲介会社によるマッチングを通じて病院Bを経営する医師を見つけ出し、引き継ぎを始めています。
M&A仲介会社による仲介のもとM&Aは成約となり、病院Aの経営者は事業承継のプロセスとして出資持分の譲渡・従業員の引き継ぎなどを行いました。ところが、その後に病院Aの役員および医療法人名の変更手続きを実施しようとするも行政側に拒否されてしまいます。
これは、M&A前に経営者が医療法人Aを運営していた時期において、毎年必要な事業報告書および2年に1度必要な役員変更届を提出していなかったためです。これにより、病院Aの経営者は、事業承継に伴う役員変更前に過去分の書類を提出するよう指導を受けてしまいました。
その結果、予定されていた医療法人の名称は変更できず、事業承継プロセスの進行に大幅な遅れが発生してしまいました。本件トラブルの対処法としては、事前に必要な行政手続きを把握したうえで確実に実施しておくことであるといえます。
②従業員の離職を招いてしまったトラブル事例
クリニックCは、設立以来30年以上にわたり医療サービスを提供してきました。スタッフの多くが10年以上勤務しており、地域住民から厚い信頼を得ています。クリニックCの院長は、「高齢であること」「自身に子供がいなかったことを理由に、M&Aによる事業承継を決断しました。
そこでM&A仲介会社のマッチングを活用し、ふさわしい後継者としてD医師を見つけ出し、交渉を進めています。交渉は問題なく進み、無事に事業承継に伴う譲渡契約を締結しましたが、承継後にD医師がこれまでのクリニックCの方針と大きくかけ離れた業務スタイルを採用したためにトラブルが発生しました。
具体的にいうと、D医師による電子カルテ・オンライン診療などの積極的な導入について、看護師をはじめとする従業員から不満が発生しています。前もって丁寧な説明がされていない状態のまま急進的に業務スタイルを変更されたことで、普段の業務に支障が生じました。
その結果、D医師の開業直後に、従業員の集団離職が起こってしまいました。本件トラブルの対処法としては、業務スタイル変更前に従業員に対して丁寧な説明を行ったうえで納得してもらうことです。
③営業権の価額を交渉する際に生じたトラブル事例
クリニックEも、これまでの事例と同様に、経営者の高齢化を理由にM&Aを用いた事業承継を検討しました。そこでM&A仲介会社のマッチングを活用したうえで後継者として医師Fを据えましたが、営業権(のれん)の価額評価の交渉時にトラブルが発生してしまいます。
具体的にいうと、クリニックEの経営者は、自身のクリニックの営業権(のれん)を適切に評価できておらず、相場とかけ離れていた価額を提示したために医師Fに承継を拒否されてしまいました。本件トラブルの対処法としては、営業権を含めた企業価値をM&A仲介会社などの専門家に算出してもらうことだといえます。
病院・クリニックの事業承継時におすすめの相談先
病院・クリニックの事業承継時におすすめの相談先をご紹介します。
金融機関
最近、金融機関がM&A支援に特化した部門を設立する動きが盛んになっています。特に、大手の投資銀行やメガバンクなどは、ファイナンシャルアドバイザー(FA)として、M&A取引における資金調達や戦略立案など、幅広い支援を提供し、取引をスムーズに進める役割を担っています。
こうした支援により、企業は資金調達や事業承継といった複雑な課題に対応しやすくなり、専門家のサポートを受けることで取引の成功率も向上します。
ただし、大手金融機関は大型案件を優先する傾向があるため、中小企業には十分なサポートが行き渡らない場合もあります。そのため、企業側は自社に適した支援機関を慎重に選ぶ必要があります。また、アドバイザリー報酬が高額になることもあるため、事前に費用を確認することが重要です。
公的機関
近年、事業承継やM&Aの公的支援体制が急速に整備されています。全国47都道府県に設置された「事業承継・引継ぎ支援センター」は、後継者不足に悩む中小企業の相談窓口として、事業承継やM&Aに関する情報提供、アドバイス、企業マッチングの支援を無料で行っています。
これにより、地方の中小企業も専門的な支援を受けやすい環境が整い、個人事業主向けのサポートも充実しています。必要に応じて、M&A仲介会社や専門家の紹介を受けることも可能です。
ただし、民間の仲介会社と比べると、対応の迅速さや柔軟性に限界があるため、利用時にはこの点を考慮する必要があります。こうした公的支援機関は、事業承継やM&Aを考える企業にとって有力な選択肢の一つといえるでしょう。
M&A仲介会社
M&A仲介会社は、企業売買に関する幅広いサポートを提供する専門機関です。売り手と買い手の両方に対し、取引先の選定、交渉支援、スケジュール管理、企業評価、契約書作成など、多岐にわたるサービスを提供し、条件を調整しながら取引をスムーズに進める役割を果たしています。
特に、豊富なネットワークを駆使して最適な相手を見つけ、M&Aの成功率を上げる点が大きな強みです。さらに、M&Aに不慣れな企業には実務面でのアドバイスも行い、取引全体が円滑に進むようサポートします。
ただし、仲介会社の利用には、着手金や中間報酬といった費用がかかる場合があるため、事前にコストの確認が必要です。費用を抑えたい場合には、成功報酬型の仲介会社を選ぶのも一つの方法です。
病院・クリニックの事業承継まとめ
病院・クリニックは公共性が高い事業であり、廃業すれば地域・患者に多大な損失を与えます。地域医療を維持するためにも、病院・クリニックの事業承継は確実に成功させなければなりません。病院・クリニックは特殊な事業であるため、事業承継・M&Aの際には専門家の協力を得ることが大切です。
M&A・事業承継のご相談なら24時間対応のM&A総合研究所
M&A・事業承継のご相談は成約するまで無料の「譲渡企業様完全成功報酬制」のM&A総合研究所にご相談ください。
M&A総合研究所が全国で選ばれる4つの特徴をご紹介します。
M&A総合研究所が全国で選ばれる4つの特徴
- 譲渡企業様完全成功報酬!
- 最短49日、平均6.6ヶ月のスピード成約(2022年9月期実績)
- 上場の信頼感と豊富な実績
- 譲受企業専門部署による強いマッチング力
M&A総合研究所は、M&Aに関する知識・経験が豊富なM&Aアドバイザーによって、相談から成約に至るまで丁寧なサポートを提供しています。
また、独自のAIマッチングシステムおよび企業データベースを保有しており、オンライン上でのマッチングを活用しながら、圧倒的スピード感のあるM&Aを実現しています。
相談も無料ですので、まずはお気軽にご相談ください。
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株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。