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2023年2月1日更新事業承継
経営者保証に関するガイドラインの特則とは?適用条件、事業承継での活用メリットを解説
経営者保証ガイドラインとは中小企業融資についての指針で、中小企業が経営者保証なしで融資を受けられるよう事業承継に関する特則が設けられています。本記事では、経営者保証ガイドラインと特則の内容、事業承継に活用するメリットなども解説します。
目次
経営者保証ガイドラインの概要
中小企業が金融機関から融資を受けるときは、経営者が保証人となる経営者保証をつけるケースが多いです。しかし、経営者保証は経営者にとって非常に負担が大きく、健全な経営が阻害され得る面もあります。
この経営者保証の欠点を改善するために、2014年に策定されたのが「経営者保証ガイドライン」です。
経営者保証ガイドラインには、経営者保証について、金融機関と経営者双方がどのような対応をすべきかの方針が記されています。
例えば、金融機関はできるだけ経営者保証をつけなくてよいように配慮し、経営者への説明や情報開示をしっかり行うべきとされています。
また、経営者側は健全な経営状態を維持し、金融機関からの情報開示に対して真摯(しんし)に対応することなどが記されています。
経営者保証とは
経営者保証とは、中小企業が銀行などから融資を受ける際に、経営者がその保証人になることです。つまり、もし会社の経営が傾いて債務を返済できなくなったときは、保証人である経営者が返済の義務を負うことになります。
経営者保証は、中小企業経営者にとって大変負担が大きいものですが、金融機関からすれば経営者保証をつけることによって、信用の低い中小企業にも融資がしやすくなるメリットがあります。
中小企業への融資では約8割が経営者保証をつけるといわれており、中小企業を経営するにあたって、経営者保証というのは避けてはとおれない問題でもあります。
策定の背景
経営者保証ガイドラインが策定されたのには、経営者保証が経営者にとって大きな負担になり、さまざまな弊害がでているという背景があります。
経営者保証をつけると、もし会社が倒産したら経営者が負債を返済することになり、経営者個人が多額の借金を背負うことになります。そうなると経営者の生活は大きく影響を受け、破産しなければならないケースもでてきます。
経営者がそのような事態を恐れて、思い切った事業計画を立てられず事業拡大のチャンスを逃したり、経営が傾いたときに事業再生を行いにくくなったりするなど、さまざまな弊害がでていることがガイドライン策定された背景となっています。
法的効力の有無
経営者保証ガイドラインはあくまで守るべきルールであり、法律ではないので法的効力はありません。
よって、経営者保証ガイドラインを守らなかったからといって、損害賠償や刑事罰が科されることはありません。
しかし、経営者保証ガイドラインというのは、経営者保証に関する問題点が存在することを認識したうえで、改善のために専門家が議論して策定したものです。
経営者保証ガイドラインを守ることは、中小企業・金融機関双方にとって有益なことであり、ひいては国全体の経済に活力をもたらすことにもつながるといえます。
経営者保証ガイドラインの特則
経営者保証ガイドラインの特則は、経営者保証ガイドラインとはまた別に策定された補完的なガイドラインです。
中小企業が事業承継を行う際は、このガイドラインをよく理解しておくことが大切です。この章では、経営者保証ガイドラインの特則の策定の背景や、特則の具体的な内容について解説していきます。
策定の背景
2014年に経営者保証ガイドラインの運用が始まって、経営者保証のない融資が増えたり、経営者と後継者両者から経営者保証をとる二重保証が減少したりと、一定の成果を上げてきました。
しかし、事業承継に関しては、後継者が経営者保証を負いたくないという理由で、後継者になることを拒むケースがあるという点が解決できていない問題があります。
そこで、2019年に事業承継における経営者保証のあり方を示した「経営者保証ガイドラインの特則」を策定し、事業承継を促すという政策がとられました。
経営者保証ガイドラインの特則は、経営者保証ガイドラインの内容を補う位置づけで、独立した別のガイドラインというわけではありません。法的拘束力はなく、自主的に遵守が求められることも同様です。
金融機関に求められる対応
経営者保証ガイドラインの特則では、事業承継で金融機関が経営者保証を求める際に、どのような対応をすべきかが定められています。
前経営者が経営者保証をしているのに、後継者にも同時に経営者保証を課す、いわゆる二重徴収を原則禁止とすることをメインに、柔軟な対応や具体的な説明など、以下の5つの対応が求められるとされています。
金融機関がこのガイドラインをしっかり守ることで、経営者や後継者の負担や不安を軽減し、円滑な事業承継を促せます。
【経営者保証ガイドラインの特則において金融機関に求められる対応】
- 個人保証の二重徴収(前経営者と事業後継者)は原則禁止
- 事業後継者に対する経営者保証は柔軟に対応
- 前経営者との保証契約は適切な見直しを行う
- 経営者保証を求める際は内容を具体的に説明する
- 特則に対応できるよう、内部規約の見直しや手続きの整備を行う
①個人保証の二重徴収(前経営者と事業後継者)は原則禁止
経営者保証ガイドラインの特則では、二重徴収は原則として行わないこととされています。ただし、徴収が禁止されているわけではなく、どうしても必要と判断される場合は、経営者・後継者への十分な説明を行えば二重徴収をつけることが可能です。
二重徴収が行えるケースとしては、例えば、前経営者の死亡により相続で事業承継を行う場合などがあります。相続手続きでどうしても一時的に二重徴収を行わなければならない場合は、例外的に二重徴収が可能です。
また、前経営者への融資額が大きく保証を外すのが適当でない場合も、二重徴収ができるとされています。
二重徴収を行った場合はその後も定期的に見直し、必要なくなったと判断すればすみやかに解除しなければなりません。
②事業後継者に対する経営者保証は柔軟に対応
経営者保証ガイドラインの特則では、後継者に対する経営者保証は当たり前のように行うのではなく、柔軟に対応することが求められるとされています。
金融機関は経営者保証に関する情報を後継者にきちんと開示し、なぜ経営者保証を行わなければならないかを説明しなければなりません。
また、後継者に経営者保証をつけた結果、事業承継にどのような影響がでるかをあらかじめよく考え、慎重に判断する必要があります。
経営者保証があるために円滑な事業承継が損なわれないかを考慮するとともに、地域経済への影響はどうなるかなどもしっかりと考え、柔軟な対応を心がけなければなりません。
③前経営者との保証契約は適切な見直しを行う
経営者保証ガイドラインの特則では、前経営者との経営者保証は、民法改正による第三者保証の制限を踏まえて適切な見直しを行うべきとされています。
前経営者への経営者保証を検討する際は、事業承継後に前経営者が会社の実質的な支配権をどれくらい持っているかが重要なポイントとなります。
例えば、事業承継後に前経営者が議決権をどれくらい持つことになるのか、事業承継後も引き続き役員にとどまるのか、それとも完全に引退するのかなどに応じて、経営者保証をつけるべきかを判断していきます。
また、後継者への経営者保証の場合と同様、定期的に保証を継続するべきか見直して、必要なくなったと判断すればすみやかに経営者保証を外すことが求められます。
④経営者保証を求める際は内容を具体的に説明する
経営者保証ガイドラインの特則では、前経営者や後継者に経営者保証を求める際は、その内容を具体的に説明しなければならないとされています。
例えば、経営者保証ガイドラインが示す経営者保証解除の条件を満たさない会社に対しては、条件のどの部分を満たしていないかを説明し、どの部分を改善すれば経営者保証を外せるかを明確にしなければなりません。
また、会社がどれくらいの資産や収益力を持ち返済能力があるかについては、抽象的な説明ではなく、数値を使ってできるだけ具体的に説明するべきであるとされています。
そして、もし経営者保証によって経営者が負債を負うことになっても、最低限の生活費などが保証されることが経営者保証ガイドラインに記されていることを説明しなければなりません。
⑤特則に対応できるよう、内部規約の見直しや手続きの整備を行う
経営者保証ガイドラインの特則では、経営者に対する対応の仕方だけでなく、金融機関内部の規約や従業員への指導などについてもルールが定められています。
まず、経営者保証ガイドラインの特則で定められている対応がきちんと遂行できるように、従業員向けのマニュアルを作成するとともに、従業員に対してしっかり周知することが求められます。
そのうえで、本当に必要な場合にだけ経営者保証をつけるための判断基準について、その具体的な内容や手続きを定めるべきとされています。
経営者保証ガイドラインを事業承継に活用するメリット
経営者保証ガイドラインとその特則は、中小企業の事業承継に大いに活用できます。
しかし、経営者保証ガイドラインをよく理解していなかったり、そもそも経営者保証ガイドラインの存在を知らなかったりする経営者がまだまだ多いのも事実です。
中小企業経営者の方は、経営者保証ガイドラインとその特則の内容を理解して、事業承継に有効活用していくことが望まれます。
経営者保証ガイドラインを事業承継に活用する主なメリットには以下の3つがあり、経営者側からガイドラインの適用を積極的に金融機関に働きかけることも重要です。
【事業承継に活用するメリット】
- 経営者保証契約の見直しや解除が可能
- 債務整理時における自宅・生計費用の保護
- 保証債務履行時における残額免除
経営者保証契約の見直しや解除が可能
経営者保証ガイドラインは、新規の融資に対する経営者保証だけでなく、すでに経営者保証をつけている融資に対してもその見直しや解除を検討できます。
経営者保証のために積極的な経営が行えない場合や、債務整理による経営者保証の負担を最小限に抑えたい場合などに有効です。
また、経営者保証の負担から解放されたいという理由で、廃業やM&Aによる売却を考えている方は、別な選択肢として経営者保証ガイドラインの適用が有力になります。
経営者保証ガイドラインによると、経営者保証の見直しや解除を求めるには、中小企業側が一定の条件を満たす必要があります。
条件を満たすためには、まず会社の資産と経営者の資産はきちんと分離しておく必要があります。中小企業では多くの場合分離があいまいですが、経営者保証ガイドラインを適用するためには、できるだけ分離しておかなくてはなりません。
そのほか、健全な経営を維持して財務基盤を強化することや、財務状況を正確に把握しておくことなどが条件となります。
債務整理時における自宅・生計費用の保護
もし会社の経営が傾いて債務整理をしなければならなくなったら、経営者保証をしている経営者は保証人として債務を弁済しなければなりません。
この際に、経営者の家や生活のための預貯金といった、生活に必要なものまで保証に回してしまうと、経営者の生活が成り立たなくなってしまいます。
経営者保証ガイドラインでは、債務整理で経営者が債務を弁済する場合でも、最低限の生活費や家などを保護しなければならないとされています。
融資の際だけでなく、債務整理の時にも経営者保証ガイドラインが活用できることを知っておきましょう。
保証債務履行時における残額免除
経営者保証ガイドラインでは、もし保証人が債務を全額弁済できない場合は、残りの債務については免除すべきであると規定されています。そして債権者は、保証人による残額免除の要請について誠実に対応すべきとなっています。
これに対して、保証人は自分がどれくらいの返済能力があるかについて正確な資料を作り、債権者に対して適切な情報開示をしなければなりません。
もし正確な情報を提供せず、財産を隠していることが発覚した場合は、保証人と債権者の話し合いのうえで、延滞利息を含めて追加弁済することになります。
経営者保証ガイドラインの適用対象・条件
経営者保証ガイドラインは、中小企業経営者にとって大変心強いものですが、全ての中小企業に適用されるわけではありません。
経営者保証ガイドラインを適用するにあたっては、自社が適用対象の条件を満たすかを確認しておく必要があります。
経営者保証ガイドラインの適用対象と条件は、新規融資・既存契約の解除・債務整理の場合でそれぞれ違ってくる部分があります。
経営者保証ガイドラインを適用する際は、どの目的で適用したいのかをはっきりさせることが大切です。
この章では、新規融資・既存契約の解除・債務整理それぞれの場合について、経営者保証ガイドラインの適用対象と条件を解説します。
経営者保証なしで融資新規契約する場合
経営者保証なしでの新規融資は、経営者保証ガイドラインを適用する事例として比較的多いと考えられます。
新規融資の対象や条件は、保証解除や債務整理の対象・条件とある程度共通する部分もあるので、経営者保証ガイドラインを活用するための基本として押さえておくとよいでしょう。
適用対象
経営者保証なしの新規融資の対象となるのは、下に示した条件を満たす企業と保証人です。対象となる債務者は原則として中小企業ですが、個人事業主や社会福祉法人なども利用可能で、必ずしも法律で規定される中小企業には限定されません。
保証人は原則として経営者ですが、経営者の配偶者、事業承継における後継者候補となる人、営業許可名義人、そのほか事実上の経営権を持っている人も対象となります。
【新規融資の適用対象】
- 債務者は中小企業等である
- 保証人は融資を受ける会社の経営者等である
- 誠実に弁済する意思がある
- 債権者の求めに応じてきちんと情報を開示する
- 反社会勢力ではない
適用条件
経営者保証ガイドラインに基づいた経営者保証のない新規融資には、債務者が以下のような条件を満たすことが求められます。
中小企業は、経営者個人の財産と会社の財産があまり分離できていないことが多いので、この点は特に注意が必要です。
例えば、自宅を事務所として兼用している場合は、これも分離しなればならない可能性があります。その場合は、例えば会社が経営者に家賃を支払う形にするなどの対応が必要です。
財務状況の透明性も、中小企業ではきちんとできていないことが多いので注意したい点です。財務諸表をきちんと作成するだけでなく、経営者自身の資産状況も把握しておく必要があります。
【新規融資の適用条件】
- 経営者の財産と会社の財産を区別する
- 財務基盤を強化する
- 自社の財務状況を把握する
- 債権者に対して情報開示を行う
既存の経営者保証を契約解除する場合
新規融資だけでなく、既存の経営者保証を解除したい場合も経営者保証ガイドラインが適用できます。
適用対象
既存の経営者保証の解除の適用対象となる条件は、新規融資の適用対象と基本的に同じです。中小企業等であり、弁済の意志と情報開示を行うこと、反社会勢力でない会社が対象となります。
適用条件
既存の経営者保証の解除においても、新規融資と同じ適用条件が求められます。経営者と会社の資産の分離、税務基盤の強化と透明化が必要です。
加えて、既存契約の解除の場合は、これらの適用条件が今後も満たされるよう、経営状態を維持することが条件になります。
また、事業承継で前経営者の保証を外す場合は、事業承継後の経営計画について、債権者にきちんと説明する必要があります。
経営者保証ガイドラインに則って債務整理を行う場合
債務整理に経営者保証ガイドラインを活用する場合は、適用条件が全く違ってくるので注意が必要です。
適用対象
債務整理の適用対象となる企業については、新規融資や既存契約の解除の場合と基本的に同じです。
適用条件
債務整理の際、経営者保証ガイドラインの適用条件は以下のようになっており、破産手続き以外にも、民事再生・会社更生などの法的債務整理手続き、および特定調停・事業再生ADRなどの準則型私的整理手続が対象となります。
普通の破産手続きなどと比べて、債権者により多くの弁済ができるかどうかは重要なポイントとなります。
また、浪費や資産の隠匿などがないことも、重要な適用条件です。厳密には、破産法の免責不許可事由が生じておらず、その恐れもないこととなります。
【債務整理の適用条件】
- 破産手続き等を開始している、またはすでに終了している
- ガイドライン適用が債権者にとって利益になる
- 浪費や資産の隠匿などの不正がない
経営者保証ガイドラインを利用するための手続き
経営者保証ガイドラインを利用するためには、次のどちらかの手続きをしておかなければなりません。
債務者の法人・会社が、法的債務整理手続(破産手続・民事再生手続・会社更生手続・特別清算手続)、あるいは公正中立な第三者が関与して行われる準則型私的整理手続(中小企業再生支援協議会による再生支援スキーム・事業再生ADR・私的整理ガイドライン・特定調停など)です。
その後、債務者の手続開始申立てと同時に経営者保証ガイドラインを利用した私的整理を行います。しかし実際には、債権者が了承しない可能性が高く、交渉・協議のみによって経営者保証ガイドラインを利用した私的整理をすることは難しいでしょう。
その場合、準則型私的整理手続の経営者保証ガイドラインを利用することになります。中小企業の場合は、中小企業再生支援協議会による再生支援スキームあるいは裁判所の特定調停を利用するのが一般的です。
経営者保証に関するガイドラインの利用状況
中小企業庁の政府系金融機関及び信用保証協会におけるガイドラインの活用実績には直近の状況が掲載されています。
資料によると、「経営者保証に依存しない新規融資の割合」は、政府系金融機関平均を見ると2014年度は4.1万件、2021年度は8.1万件と倍増しています。民間金融機関平均を見ると2014年度は42.6万件、2021年度は73万件と増加傾向です。一方、信用保証協会平均は16万件程度で推移しています。
経営者保証ガイドラインと専門家派遣制度による事前準備のサポート
経営者保証ガイドラインは内容が難しく、活用したくても躊躇(ちゅうちょ)してしまう方もいるかもしれません。そのような方が経営者保証ガイドラインを安心して適用できるために、専門家派遣制度による事前準備のサポートがあります。
専門家派遣制度では、会社の経営状態が経営者保証ガイドラインの適用条件を満たすかどうかを、専門家に検証してもらうことが可能です。
条件を満たさない部分がある場合は、満たすために何をすればいいか、具体的なアドバイスを受けられます。
債務整理の場合は、弁済計画の作成なども支援してもらえます。制度を利用したい場合は、商工会や商工会議所などに問い合わせて申し込みを行います。派遣は年3回まで可能です。
M&Aを検討する際の相談先
事業承継で経営者保証ガイドラインを活用する場合、親族などへの承継ではなく、M&Aで会社を売却して保証を後継者に引き継いでもらうという方法もあります。
また、経営状態が悪く債務整理を検討するような会社でも、買い手にとって何かしらの魅力があれば買い手がみつかることもあります。
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経営者保証に関するガイドラインの特則まとめ
経営者保証ガイドラインは、中小企業にとって大変有用にもかかわらず、認知度はまだ高いとはいえません。
今後は経営者保証ガイドラインを適切に活用した経営を行うことが、中小企業経営者にとって重要になると考えられるので、内容をよく理解しておくとよいでしょう。
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