2025年11月17日更新会社・事業を売る

M&Aの株式譲渡とは?手続きの流れからメリット・デメリット、税金まで専門家が解説

M&Aの手法として最も一般的な株式譲渡。本記事では、株式譲渡の基礎知識から、メリット・デメリット、手続きの流れ、税金についてまで、M&Aの専門家がわかりやすく解説します。

目次
  1. 株式譲渡とは
  2. 株式譲渡を利用したM&Aとは
  3. 株式譲渡によるM&Aのメリット【売り手・買い手別】
  4. M&Aにおける株式譲渡の手続き・流れ
  5. 株式譲渡によるM&Aのデメリットと注意点
  6. M&Aの株式譲渡で発生する税金【個人・法人別】
  7. まとめ
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株式譲渡とは

一般的に株式譲渡とは、株式市場で売買される上場企業の株式譲渡を指しますが、M&Aの文脈では、非上場企業の株式を特定の相手に売却する行為を指すことが大半です。多くの中小企業では定款で株式に譲渡制限を設けており、その場合は取締役会や株主総会の承認が必要になります。

結局のところ、上場、非上場に関係なく自己が所有している株式を売却する場合、総じて株式譲渡を行ったことになります。譲渡をするということは、譲受する立場も存在します。ただし、株式市場の株取引の場合、原則的には譲渡に際して特定の誰かに行うものではありません。

明確に譲受相手がいる株式譲渡は、株式市場を介さない非上場企業株式の売買のときのみです。なお、上場企業の株式であっても、TOB(Take Over Bid=株式公開買い付け)を実施する企業に応じる場合においては、特定者への売却となります。

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株式譲渡を利用したM&Aとは

M&AとはMergers and Acquisitionsの略称です。Mergerが合併、Acquisitionが買収を意味します。会社の買収とは、会社の経営権を買い取ることです。会社の経営権は、その会社の株式を所有している者が握っています。

つまり、M&Aにおける会社買収の最もシンプルな方法として株式譲渡が実行されたとき、会社の経営権は買い取られ移転したことになるのです。このとき、株式譲渡によって入手する株式の総数が重要な意味を持ちます。なぜなら、株式数とは株主総会における議決権数だからです。

したがって、会社の意思決定を単独で行うためには、少なくとも過半数(普通決議)の株式譲渡を受ける必要があります。さらに、定款変更や合併といった重要事項を決定できる特別決議(議決権の3分の2以上)の可決を目指すのが望ましいでしょう。

理想は全株式の取得ですが、非上場企業の場合、オーナー経営者が全株式を所有しているケースが多く、交渉がまとまれば100%の株式取得も可能です。そのため、株式譲渡は特に非上場の中小企業のM&Aと相性が良い手法といえます。

なお、こうした複雑な交渉や手続きを円滑に進めるためには、実績豊富なM&Aの専門家や仲介会社への相談が不可欠です。


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株式譲渡によるM&Aのメリット【売り手・買い手別】

株式譲渡によるM&Aのメリットについて考えてみましょう。売り手である譲渡側と買い手である譲受側の双方に共通するメリットは、他のM&A手法に比べて株式譲渡は手続きが簡便なことです。株主総会や債権者に対する対応などが基本的に不要であり、スピーディーに手配を進められます。

その他のメリットは、譲渡側と譲受側という立場でそれぞれ別種のものです。その内容を個別に見ていきます。

売り手(譲渡側)のメリット

非上場中小企業の株式譲渡でのM&Aでは、譲渡する売り手側には主として2つのメリットがあります。

売却益収入

売り手側であるオーナー経営者にとって最大のメリットは、創業者利潤を獲得できる点です。株式譲渡の対価とは会社の売却価額ですから、それ相応の金額が支払われるでしょう。オーナー経営者が引退するのなら、十分な老後資金を得られるはずです。

また、まだ引退する年齢でないならば、それを資金に新しいビジネスにチャレンジもできます。仮に会社を売却せず廃業するケースと比較すれば、廃業は廃業で細かな手続きが必要なうえに、設備の処分や後始末で費用がかかります。

従業員に退職金や慰労金も払わなければならないでしょう。それらの点を株式譲渡と比べたら、どちらが有益かは誰の目にも明らかです。

事業承継の実現

後継者不在に悩む中小企業にとって、株式譲渡によるM&Aは事業承継を円滑に実現する有効な手段です。会社が存続することで、長年培ってきた技術やノウハウが次世代に引き継がれます。

また、従業員の雇用が維持されるだけでなく、取引先との関係も継続されるため、地域経済への貢献にも繋がります。廃業を選択した場合に発生する従業員の解雇や取引先への影響といった問題を回避できる点は、経営者にとって大きなメリットです。
 

買い手(譲受側)のメリット

一方、株式譲渡を受けた買い手側にもメリットがあります。こちらも主としたメリットは2点です。

会社を丸ごと取得できる

株式譲渡によるM&Aを外部から見たとき、株式譲渡の実行前と実行後の違いは株主が違うということだけです。つまり、株式譲渡された会社が行ってきた事業、所有している資産や権利、義務、許認可など全てを丸ごと、買い手である新しい株主が取得したことになります。

例えばM&Aの別手法である事業譲渡の場合、譲渡を受けたい事業、資産、権利、義務などは、それぞれ1つずつ個別に取得する契約を結ぶという細かな手続きが必要です。また、許認可は新たに申請しなければなりません。

その点、株式譲渡であれば、株式譲渡契約1つだけで、その会社が所有しているものを丸ごと取得することができるのです。

事業継続性の維持

株式譲渡の実行前と実行後で株主が違うだけということは、対外的には会社は何の変化もしていません。つまり、株式譲渡が行われたからといっても組織再編のようなことが行われたわけではないので、これまでどおり何ら歩を止めることなく事業を継続して行うことができます。

会社の本来の目的は事業で収益を得ることですから、独立性が維持されたままスムーズにM&Aが実行できる株式譲渡は、有効なM&A手法といえるでしょう。

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M&Aにおける株式譲渡の手続き・流れ

株式譲渡によるM&Aは、一般的に以下の3つのステップで進められます。各段階で専門的な知識が求められるため、M&Aアドバイザーと連携しながら進めることが重要です。
 

M&Aの準備段階

まず、売り手はM&Aの専門家に相談し、自社の企業価値を算定します。並行して、買い手候補のリストアップや、企業の概要をまとめたノンネームシート、より詳細な企業概要書(IM)の作成を進めます。買い手側は、自社の成長戦略に基づき、買収候補となる企業の探索を行います。
 

M&Aの交渉・契約段階

買い手候補が見つかると、秘密保持契約(NDA)を締結し、企業概要書を開示します。その後、経営者同士のトップ面談を経て、基本的な条件交渉を行います。条件に双方が大筋で合意すれば、基本合意契約(MOU)を締結し、買い手によるデューデリジェンス(買収監査)が実施されます。
 

M&Aのクロージング(最終手続き)

デューデリジェンスの結果を踏まえて最終的な条件交渉を行い、双方が合意に至れば、株式譲渡契約(SPA)を締結します。その後、株式譲渡の対価の決済と株主名簿の書き換えが行われ、M&Aの全手続きが完了(クロージング)します。
 

株式譲渡によるM&Aのデメリットと注意点

いろいろとメリットのある株式譲渡でのM&Aですが、残念ながらそこにはデメリットもあります。売り手、買い手によってそれぞれ違う、株式譲渡でのM&Aのデメリットについて掲示します。

①株式譲渡M&A・売り手のデメリット

非上場中小企業がM&Aで株式譲渡する場合、売り手側には主として3つのデメリットがあります。

株式の取りまとめ

時々見かけるケースとして、中小企業のオーナー経営者が自社株式100%を所有していない場合があります。何らかの理由で親族や知人、取引先などに出資してもらっていたり、株を渡していたりするようです。

買い手側としては全株式の取得を希望しますが、このようなケースでは、買い手側で全株主への個別交渉は行いません。オーナー経営者に対し、株式の取りまとめが要求されます。したがって、オーナー経営者はそれを行うわけですが、それがスムーズにいかないこともあります。

株式数など正確な情報がなかったり、先方と疎遠になっていたりなど事情はそれぞれですが、分散株式がある場合、その取りまとめはとても面倒で厄介なことが多いようです。

課税措置

株式譲渡によって売り手側には収入がありますから、そこには税金が課せられます。売り手が個人か法人かで課税内容も変わるため、注意が必要です。株式譲渡における税務については、別途、後述します。

特別な資産などの個別手続き

株式譲渡でM&Aを行う売り手側で特別な何かの事情があり、会社の特定の資産を手元に残したい場合、株式譲渡では会社を丸ごと買い手側に手渡すことになりますから、その資産の所有権をあらためて売り手側に移転させる手続きが必要です。

株式譲渡時に特定の資産を除いておくことは、仕組みのうえではできません。そのため、上記のようなケースでは余分な手続きが発生することになります。

②株式譲渡M&A・買い手のデメリット

株式譲渡を利用したM&Aでは、買い手側にもデメリットはあります。主として考えられる4つの株式譲渡のデメリットを掲示します。

株式分散リスク

株式譲渡の売り手側のデメリットで述べた株式の取りまとめがうまくいかなかった場合、本来であれば全株式100%を取得したかった買い手側は、それが得られないことになります。数%の株式であれば今後の経営が左右されるようなことはありません。

しかし、継続して少数株主への対応を取るために労力を割かなければならないのはデメリットです。

資金準備

他のM&A手法である株式交換や株式移転の場合、対価として株式交付ですみます。基本的に現金は必要ありません。しかし、株式譲渡での対価は現金です。相応の出費ですが、その資金を準備しなければ株式譲渡は実現できません

不要な債務の取得

株式譲渡では会社を包括的に承継するため、資産だけでなく負債もすべて引き継ぐことになります。特に注意が必要なのは、帳簿に記載されていない「簿外債務」や、将来的に発生する可能性のある「偶発債務」です。具体的には、未払いの残業代や退職金、訴訟リスクなどが挙げられます。

これらのリスクを見抜けずにM&Aを実行すると、買収後に想定外の損失を被る可能性があります。そのため、M&Aの専門家による徹底したデューデリジェンス(買収監査)が不可欠です。デューデリジェンスを通じてリスクを正確に把握し、買収価格の交渉や契約書への表明保証条項の追加といった対策を講じることが重要です。
 

シナジー効果の薄さ

事業譲渡、または合併などのようなM&A手法と株式譲渡を比べると、その差は譲渡された会社の独立性です。この独立性は利点にもなりますが、M&A後、1つの組織に統合される他のM&A手法との比較では、シナジー効果という点で物足りなさが出てしまうのは否めません。

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M&Aの株式譲渡で発生する税金【個人・法人別】

M&Aを株式譲渡で実行した場合、株式の売り手側は対価という収入を得るため課税対象となります。一方、買い手側は課税を受けません。株式などの有価証券は消費税の非課税対象となっているので、消費税も生じないことになっています。

株式譲渡での売り手側への課税では、売り手が個人か法人かによって、その内容は変わります。個別に課税内容を確認しておきましょう。

①売り手が個人の場合(所得税・住民税)

オーナー経営者など個人株主が株式を譲渡して利益(譲渡所得)を得た場合、その利益に対して所得税・復興特別所得税・住民税が課税されます。税率は、2025年時点においても合計で20.315%です。

内訳は以下の通りです。

  • 所得税:15%
  • 復興特別所得税:0.315%(所得税額の2.1%)
  • 住民税:5%

譲渡所得は「譲渡価額 −(取得費 + 譲渡費用)」で計算され、他の所得とは分けて税額を計算する「申告分離課税」の対象となります。

②株式譲渡M&Aでの税務・売り手が法人の場合

M&Aで株式譲渡を行うとき、譲渡側が法人であることもあり得ます。この場合、譲渡所得の算出方法については個人と同様です。しかし、課税の仕組みについては、法人と個人では異なります。譲渡所得計算がプラスであるのなら、益金に算入され法人税の課税対象です。

譲渡所得計算でマイナスであった場合は、損金に算入し確定申告されます。

※関連記事
株式譲渡所得とは?税金や確定申告・節税対策・M&Aの手法を解説
株式譲渡時の税金

まとめ

M&Aにおける会社買収手段として、株式譲渡は最もベーシックなものともいえます。これまでにも多くのM&Aが株式譲渡によって行われてきた事実からも、それは明らかです。会社を売却するのは簡単な決断ではありませんが、M&Aの手法をよく知ることは決断の助けとなるでしょう。

本記事の要点は、以下のとおりです。

・株式譲渡とは
→自己が所有している株式を売却すること

・株式譲渡を利用したM&Aとは
→株式譲渡により会社の経営権は買い取られ移転する

・株式譲渡M&A・売り手買い手共通のメリット
→手続きが簡便

・株式譲渡M&A・売り手のメリット
→売却益収入、事業承継の実現

・株式譲渡M&A・買い手のメリット
→会社を丸ごと取得、事業継続性の維持

・株式譲渡M&A・売り手のデメリット
→株式の取りまとめ、課税措置、特別な資産などの個別手続き

・株式譲渡M&A・買い手のデメリット
→株式分散リスク、資金準備、不要な債務の取得、シナジー効果の薄さ

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