2021年4月24日更新事業承継

分離課税とは?源泉分離課税と申告分離課税をわかりやすく解説

日本では所得は10種類に分類され、各所得ごとに総合課税か分離課税のどちらかが適用されることになっています。また、分離課税には源泉分離課税と申告分離課税の2種類の区分があります。分離課税の詳細について、わかりやすく解説します。

目次
  1. 日本の所得課税制度
  2. 分離課税の概要
  3. 分離課税の種別
  4. 分離課税の対象となる所得
  5. まとめ

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日本の所得課税制度

日本では、個人でも法人でも所得を得た場合、課税の義務が生じます。そして、所得の種類によって課税される方式は異なっています。まずは、所得の種別、課税方式の種類について詳細を見てみましょう。

所得の種別

日本では、所得は以下の10種類に分類されています。

給与所得 会社員や公務員などが受け取る給料・賞与・賃金
事業所得 商工業・農業・漁業・サービス業・自由業などの自営業、個人事業での収入
不動産所得 土地・建物・飛行機・船舶などの賃貸による収入
利子所得 預貯金や公社債の利子、合同運用信託などの収益の分配金
配当所得 株式の配当金、証券投資信託などの収益の分配金
雑所得 公的年金、原稿料、講演料、印税、また他の9種類の所得に属さない収入
譲渡所得 土地・建物・株式・ゴルフ会員権などの資産を売却して得た収入
一時所得 生命保険の一時金、懸賞や競輪・競馬などの賞金
退職所得 退職金
山林所得 5年以上所有している山林(立木)を伐採して売却して得た収入

補足としては、医師・弁護士・芸能人などの収入は事業所得に分類されます。また、宝くじについては、購入時に課税額が含まれている仕組みになっていることから、賞金には課税されません。

2種類の所得課税方式

上述した10種類の各所得ごとに、決まった課税方式が定められています。日本の所得税の課税方式としては、総合課税と分離課税の2種類があります。総合課税とは、対象となる所得を全て合算したうえで、定められた累進税率により課税されることです。

一方、分離課税とは、総合課税の対象とはならず、所得ごとに別途定められた税率が適用され課税されます。また、所得によっては、総合課税か分離課税か選択できる場合があったり、同じ区分の所得でも内容次第で総合課税か分離課税かに分かれるなど、少々複雑な点があります。

本記事では、その分離課税について、わかりやすく詳細を明らかにしていきます。

分離課税の概要

日本において、所得への基本的な課税方針は総合課税です。わかりやすく言えば、分離課税は例外的な所得への課税方法とも表現できるでしょう。総合課税における税率は累進課税ですから、所得額が高じるほど税率は上がります。最高で45%の課税率です。

この時、住民税10%も課税されるので実質55%の税率となります。一方、分離課税では、他の所得との合算はなく、各所得を単体で分離した状態で税率計算されます。また、分離課税の税率は、どの所得の場合も総合課税よりも低率に抑えられているのも特徴です。

納税者の立場からすれば、分離課税制度は税負担が下げられることとなる、ありがたい制度と言えるでしょう。同じようにありがたい課税における制度としては、損益通算があります。損益通算とは、損失が出た所得がある場合、その分を他の所得の利益から差し引けることです。

ただし、全ての所得間での損益通算ができるわけではありません。また、損益通算に用いることができる損失所得は、事業所得、不動産所得、譲渡所得、山林所得の4つに限定されています。なお、株式の譲渡所得などにおいては、損失分を3年間繰り越せる繰越控除も認められています。

分離課税の種別

分離課税の方式には、源泉分離課税と申告分離課税の2種類があります。それぞれの内容や違いについて、わかりやすく比べてみましょう。

①源泉分離課税

源泉分離課税とは、所得を受け取る時点で、すでに所得税の分離課税が源泉徴収されていることを意味します。分離課税ですから、該当する特定の所得についてのみ、他の所得とは完全に分離したうえで規定の税率が課税され、所得から差し引かれています。

2020(令和2)年2月現在の源泉分離課税の税率は、20.315%(所得税15.315%、住民税5%)です。

2037(令和19)年までは、0.315%の復興特別所得税が加算されています。源泉分離課税では、この源泉徴収によって当該所得の所得税を支払ったことになります。つまり、その所得についての納税は完了であり、確定申告をする必要はありません。

②申告分離課税

申告分離課税をわかりやすく言えば、確定申告の段階で分離課税を実行することです。従って、確定申告が必須となります。源泉徴収によって納税が完了している源泉分離課税と比べると、納税者としては手間がかかる課税方式です。

申告分離課税では、該当する特定の所得をそれぞれ分離し、各個別々に申告しなければなりません。どの所得が源泉分離課税扱いで、どの所得が申告分離課税となるのか、次項以降で詳しく明らかにします。

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分離課税の対象となる所得

10種類の所得のうち、分離課税の対象となる所得について、わかりやすく1つずつ説明していきます。同一所得に分類される収入でも、その内容によっては課税方式が異なる場合もあります。

なお、給与所得と不動産所得については、分離課税選択の余地はなく、総合課税のみが唯一の課税方式です。従って、分離課税の対象にはなり得ないため、以下の説明には含まれません。

①譲渡所得

譲渡所得とは、資産を譲渡して得た利益のことです。家電や自動車などは生活用品と見なされるので資産には該当しません。一般的に資産に該当するのは土地、借地権、建物、株式、ゴルフ会員権などです。

譲渡所得の場合、ゴルフ会員権などは総合課税が適用されますが、土地、借地権、建物、株式などは原則的に申告分離課税になります。また、同じ申告分離課税でも、土地・建物と株式では税率などの内容が違います。以下、その点を個別に説明します。

土地・建物の申告分離課税

土地・建物の譲渡所得への課税にあたっては、以下の内容で特別控除が認められています。

  • 収用による土地や建物の譲渡:5,000万円まで
  • 居住している自宅の譲渡:3,000万円まで
  • 特定土地区画整理事業などのための土地の譲渡:2,000万円まで
  • 特定住宅地造成事業などのための土地の譲渡:1,500万円まで
  • 2009(平成21)年~2010(平成22)年に取得した土地の譲渡:1,000万円まで
  • 農地保有の合理化などのための農地などの譲渡:800万円まで
土地・建物の申告分離課税における基本的な税率は、譲渡した土地・建物の所有期間で以下のように違います。2037年まで適用される復興特別所得税を加算した税率です
  • 所有期間が5年超:所得税15.315%、住民税5%
  • 所有期間が5年以内:所得税30.63%、住民税9%
税率については、国に譲渡した場合、あるいは交換譲渡だった場合などのような条件によって、さらに変化します。自身がどの条件に該当しているかは、詳細を税理士などに確認しましょう。

株式の申告分離課税

株式の譲渡所得の場合、上場株式の譲渡とそれ以外の一般株式(非上場会社の株式など)の譲渡とは区分されており、申告においても別々に行うことになっています。上述した損益通算も、上場株式譲渡所得と一般株式譲渡所得の間では行うことができません。

また、一般株式の譲渡所得は申告分離課税ですが、上場株式の譲渡所得については、総合課税・申告分離課税・源泉分離課税(申告不要)から選択可能です。ただし、源泉分離課税とするためには、証券会社に源泉徴収ありの特別口座を開設しておく必要があります。

株式の譲渡所得への分離課税の税率は、上場株式でも一般株式でも変わりはありません。税率は、2037年までの復興特別所得税を含めて20.315%(所得税15.315%、住民税5%)です。

通常、一般株式の譲渡所得と言えば、オーナー経営者がM&Aで会社を売却する時に手にする所得が該当します。M&Aで会社の株式を売却する時には、売却後の納税対策にも気を配りたいものです。

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②配当所得

配当所得とは、主として株式の配当金や投資信託、特定目的信託の収益の分配金などです。通常、それらの所得を受け取るときには、税金は源泉徴収されています。従って、源泉分離課税の対象と言えるのですが、配当所得の場合、その他の課税方式も選択できるようになっています。

源泉徴収され源泉分離課税を受けた段階で納税を完結させることを、申告不要制度の適用と言います。しかし、配当所得の場合、納税者の希望により、確定申告を行い総合課税とするか、申告分離課税とするかを選んでもよいことになっているのです。

なお、配当所得の源泉徴収時の税率は、上場株式の配当金では20.315%(復興特別所得税と住民税含む)ですが、非上場株式の配当金では20.42%(同)になります。また、配当所得では、負債の利子に関して一定の控除が受けられます。

③利子所得

利子所得には、公社債の利子、合同運用信託などの収益の分配金もありますが、最もわかりやすく身近な収入としては、金融機関への預貯金の利子でしょう。利子所得も手元に入った段階で、すでに源泉徴収されています。源泉分離課税の対象所得です。

ただし、例外措置として、国外で支払われる預金類の利子などの所得については、総合課税が適用されることになっています。

④事業所得

一般的な事業所得については、総合課税が適用されます。しかし、例外として、申告分離課税が適用される収入があります。それは、営利目的を持って事業として執り行った場合の先物取引や株式の譲渡で得た収入などについてです。

また、事業としての収入ではありますが、事業所得には分類されないものがいくつか存在します。それらは、不動産所得、山林所得、雑所得の中のどれかに区分されています。

⑤山林所得

山林所得は申告分離課税の対象です。分離5分5乗課税方式という特殊な税率が適用されます。山林所得は山林を所有している特定の事業主しか発生しない所得です。山林所得をわかりやすく言うと、立木のままの状態の山林、またはそれを伐採して譲渡するときに生じる所得を意味します。

ただし、その山林を取得して5年超となっている場合は山林所得ですが、取得後5年以内の場合は、事業所得か雑所得扱いになります。また、立木だけでなく、土地である山ごと譲渡した場合には、土地に関する所得部分は譲渡所得に分類されます。

⑥退職所得

いわゆる退職金が退職所得ですから、退職金を受け取るときにはすでに源泉徴収されています。つまり源泉分離課税となります。ただし、退職所得は確定申告も可能です。ある場合によっては、申告を行ったほうが有利となるケースもあります。

従って、退職所得は申告分離課税の対象でもあるのです。また、退職所得の中には、過去の雇用関係で発生した一時金を、みなし退職所得して扱うケースがあります。過去の勤め先において、退職金のようなお金を受け取っている場合は注意が必要です。

なお、退職所得では、以下のような金額の特別控除が認められています。

  • 勤続年数20年超:70万円×(勤続年数-20年)+800万円
  • 勤続年数20年以下:40万円×勤続年数
上記計算において、勤続年数の端数は切り上げ処理します。また、勤続年数20年以下の場合に計算結果が80万円未満だった場合は、特別控除額は80万円が適用されます。

⑦一時所得

ほとんどの一時所得は総合課税が適用されます。その中で源泉分離課税の対象となるのが、加入してから5年以内に発生した一時払養老保険や一時払損害保険などの所得です。

また、宝くじの当選金同様、心身あるいは資産の損害により被った損害賠償金や損害保険金は非課税扱いになります。

⑧雑所得

雑所得をわかりやすく言えば、その他の9種類の所得に該当しないもの全てです。公的年金から、アフィリエイト収入、仮想通貨取引で得た利益など、幅が広すぎて一概にまとめて形容できません。しかし、そのほとんどは総合課税の対象です。

その中で分離課税の対象となるものもあります。定期積金で得られる給付補填金、抵当証券の利息、金投資口座で得られる利益、外貨預金の為替差益などの金融類似商品の所得は、源泉分離課税の対象です。

また、FX(Foreign Exchange=外国為替証拠金取引)や先物取引の利益については、申告分離課税の対象となっています。

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まとめ

給与所得や事業所得以外にも収入がある場合、その所得が分離課税の対象となり得るかどうかだけは、知っておきたいものです。基本的に分離課税の対象となるものは、節税効果を得られると考えていいでしょう。

ただ、国税庁や税務署の資料では、わかりやすく分離課税について理解できるとは言い難いので、詳細については税理士など専門家に相談することをおすすめします。

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