M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
2024年11月11日更新会社・事業を売る
M&Aとは?意味や動向とM&Aを行う目的・メリットなどをわかりやすく解説!
近年はM&Aが経営戦略として注目されており、実施件数も年々増加しています。M&Aの特徴はそれぞれ異なるため、自社の目的にあった手法を選択することが重要です。この記事では、M&Aの手法ごとの特徴やメリット、手続きの方法や流れを解説します。
目次
M&Aとは?
一般的にM&Aとは「合併と買収」を指し、M&Aは合併を意味するMergersと買収を意味するAcquisitionsの頭文字をとった言葉です。M&Aの手法には合併・株式譲渡・事業譲渡・会社分割などがあります。
M&Aという場合の多くは「会社あるいは経営権の取得」という意味で使用されますが、広義の意味で業務提携や資本提携などもM&Aに含める場合があり、近年はさまざまなM&Aが行われるようになってきました。
M&Aの現状と動向
かつて、M&Aは乗っ取りなどのマイナスイメージが強く、実施するのも大企業が大半でした。しかし2000年代になると経営戦略の1つとして認知されるようになり、現在では中小企業や個人事業主がM&Aを行うケースも増えてきています。
M&A件数の推移
M&A件数は2012年以降右肩上がりで推移しており、2019年には初めて4000件を超えました。2020年は新型コロナの影響で前年より減少したものの3730件が実施されており、以前に比べ高水準であることがわかります。
また、2021年には4304件と過去最高を記録し、この背景として考えられるのはコロナ禍によってM&Aが後倒しされたことや金融緩和措置が取られたことです。
M&Aは未公表案件も多いため国内で実際に行われたM&A件数はさらに多いと考えられ、データからは近年のM&A活発化が見て取れます。
参考:中小企業庁 2021年版「 中小企業白書」
M&A増加の背景
近年、国内のM&Aが大きく増加している背景には以下の2つが挙げられます。
高齢化
中小企業庁 2021年版「中小企業白書」 第3章」
出典:https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2021/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap3_web.pdf
国内経営者の年齢は年々上昇しており、上のグラフを見ると2000年は経営者年齢のピークは50~54歳でしたが、2015年には65~69歳となっています。
2020年まで経営者のピークは一定の年齢層に集中していましたが、2020年になるとピークが分散し60~64歳、65~69歳、70~74歳の割合が同程度という結果になりました。
この要因として考えられるのは、団塊世代の経営者が事業承継などにより引退したことです。その一方で2020年は70歳以上の経営者割合も高くなっており、前述したピークの分散と合わせて考えると事業承継を行った企業とまだ行っていない企業に二極化していることがうかがえます。
後継者不足
経営者の高齢化だけでなく、後継者不足もM&Aの件数が増加した要因のひとつと考えられます。かつて、中小企業の事業承継はほとんど子などを後継者とする親族内承継で行われていました。
しかし、近年は少子化が進み、経営者自身に子がいないケースや子がいても別の道を選択して会社を継ぐ意思がないケースも増えています。
帝国データバンクが行った調査(全国・全業種の約27万社を対象)によれば、2022年の後継者不在率は経営者の年齢が50歳代では65.7%、60歳代が42.6%、70歳代は33.1%です。
全体の後継者不在率は57.2%と同社が調査を開始した2011年以降では初めて60%を下回り、M&Aによる事業承継や出向などの「M&Aほか」の割合は20.3%と初めて2割を超えました。
国のサポート体制が整ってきたことやM&Aが広く認知されてきたことなどで、最近では事業承継手段としてM&Aを活用する企業が増えており、それが全体のM&A件数を押し上げる結果になったと推察されます。
参考:株式会社帝国データバンク「全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)」
M&Aのイメージ改善
厚生労働省「 中小企業・小規模事業者における M&Aの現状と課題」および中小企業庁 2021年版「中小企業白書 第3章」より作成
出典:https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/hikitugigl/2019/191107hikitugigl03_1.pdfhttps://ww...
近年はM&Aの認知度もあがり、かつてのマイナスイメージもずいぶん改善されてきました。M&Aについてのイメージ調査では、約4割が「よい手段だと思う」と回答しており、以前の「乗っ取り」「身売り」といったイメージはだいぶ薄れたことがわかります。
その一方で、M&Aについて「よくわからない」「よい手段だと思わない」と回答した経営者は、合わせて約6割というのも事実です。
また、M&A(売却)に対するイメージを経営者の年代別にみると、経営者年代が若いほど「プラスのイメージになった(抵抗感が薄れた)」と回答しています。
しかし、経営者年齢が高いほど「プラスのイメージになった(抵抗感が薄れた)」と「マイナス のイメージになった(抵抗感が増した)」の差が縮まっていることから、中小企業のM&Aがさらなる普及には経営者のマインドを変えることが課題といえるでしょう。
参考:厚生労働省「中小企業・小規模事業者における M&Aの現状と課題」
参考:中小企業庁 2021年版「中小企業白書」 第3章
親族外継承が活発化
前述したように、近年は後継者不在の中小企業が増えており、業績が黒字であっても廃業を選択せざるを得ない企業も多くみられます。
日本は国内企業の9割を中小企業が占めていますが、廃業などにより事業が存続されなければ経済や雇用に大きな影響を与えかねません。
国はこの状態を打破するため、事業承継・引継ぎ支援センターの設置や事業承継税制の措置などによって中小企業の事業承継をサポートしています。
その甲斐もあり、最近はM&Aによって事業承継を行う企業も増えており、帝国データバンクの調査によれば2022年の事業承継では買収や出向などの「M&Aほか」を選択した割合が20.3%となりました。
また、後継者別の割合をみると2022年で最も高かったのは「非同族」の36.1%となっており、同社が調査を開始した2011年以降「非同族」が首位となったのは初めてです。
かつて、中小企業の中小企業の事業承継は親族を後継者として事業を引き継ぐのが大半でしたが、近年では脱ファミリーの動きが加速しており親族外への事業承継を選択するケースが増加しています。
参考:株式会社帝国データバンク「特別企画:全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)」
M&Aを行う目的
本章では、M&Aを行う目的および得られるメリットを、売却側・買収側の2つの立場に分けて取り上げます。
売却側の目的 | 買収側の目的 |
---|---|
・後継者問題の解決 ・創業者利益の獲得 ・買収企業の経営資源による経営基盤の強化 |
・事業の強化・拡大 ・短期かつ低リスクでの新規事業参入 ・シナジー効果 |
譲渡企業(売り手)のM&Aの目的
M&Aで会社・事業を売却する主な目的には以下があります。
①後継者問題の解決
M&Aを行えば、後継者不在の状態からでも事業承継を果たせます。また、買収側の企業に事業を引き継いでもらえば、親族・従業員に引き継ぐ場合と比べて、後継者の教育期間として多くの時間を確保する必要がありません。
最近は後継者不足に悩む中小企業が非常に多く、M&Aによる事業承継の件数が増加しています。
M&Aによる事業承継は、「後継者が見つからない」「リタイアまでに時間がなく後継者を探していられない」と悩んでいる場合の解決策になります。その一方で、M&Aを行わずに廃業すれば、取引先や従業員に迷惑をかけてしまうおそれがあります。そのため、現時点で後継者がいない場合、M&Aによる事業承継の選択肢を検討すると良いでしょう。
②創業者利益の獲得
現経営者からすると、M&Aによる譲渡益の獲得も目的のひとつです。つまり、M&Aで売却すれば、その分の譲渡益を手に入れられます。およその目安として、得られる譲渡益は経常利益の3倍〜5倍程度です。
その一方で、廃業すると譲渡益は得られないうえに廃業費用が必要です。そのため、経営者を引退した後の生活費に不安がある場合は、M&Aを積極的に検討するとよいでしょう。
最近では、M&Aによる譲渡益を用いて新たな事業に挑戦する方や、一部事業の譲渡益を用いて残した事業に注力する方も多いです。このように、M&Aによってまとまった現金を得られることは、さまざまな目的の達成に役立ちます。
③買収企業の経営資源による経営基盤の強化
M&Aを行えば、買収企業の経営資源により事業が発展する可能性も高いです。会社経営では、人材不足・資金不足に悩むケースがあります。しかし、こうした場合にM&Aで企業を売却すると、買収側の協力を得ながら課題の解決を図ることが可能です。
たとえM&Aで売却しても、これまで自身が携わっていた事業の成長を見るのはうれしいものです。売上の低下・人材不足など何らかの経営課題を抱えている場合は、M&Aでの解決を積極的に検討すると良いでしょう。
譲受企業(買い手)のM&Aの目的
M&Aで会社・事業を買収する目的には主に以下が挙げられます。
①事業の強化・拡大
M&Aで会社や事業を買収すると、事業の効率的な強化・拡大が図れます。例えば、同エリアで事業を行っている同業他社を買収すれば、事業の強化・拡大を時間をかけずに実現することが可能です。また、既存事業と関連する事業を取り込めば、事業領域の拡大を図ることもできます。
M&Aではすでに収益性が判明している状態で事業あるいは企業を取得できるため、事業強化に失敗する可能性が低い点もメリットです。特に競争が激化している業界では、M&Aによる事業の強化・拡大が今後ますます増えると推測されます。
②短期かつ低リスクでの新規事業参入
短期間かつ低リスクで新規事業を始められるため、M&Aを活用する場合もあります。新規事業の立ち上げは、コストがかかるうえに成功するとは限りません。しかし、M&Aで既存の事業を購入すれば、低リスクで新規事業をスタートできます。
業界によっては、既存企業のシェアが高く新規参入が難しいケースも多いです。また、せっかくコストをかけて事業を始めても、売上が出せないトラブルが発生する場合も珍しくありません。
その一方で、参入予定の業界である程度の売上があり、複数の取引先を持っている企業をM&Aにより買収すれば、失敗の確率を大きく下げられるのです。
③シナジー効果
M&Aを行ううえではシナジー効果の発揮が非常に重視され、販売シナジー・生産シナジー・経営シナジー・投資シナジーなどさまざまな効果があります。
シナジーがどの程度期待できるかは買収判断の要素でもあり、買収側はシナジー発揮を目的にM&Aを行うケースも多いです。
シナジー効果がどの程度期待できるかは、売却側・買収側の事業の親和性によって大きく変わるため、M&Aの交渉先を選ぶ際の大きなポイントともなります。
M&Aによって得られるメリット
M&Aを行うことによって得られるメリットは、譲渡企業(売り手)と譲受企業(買い手)とで異なり、主なものには以下があります。
譲渡企業(売り手)のM&Aのメリット | 譲受企業(買い手)のメリット |
---|---|
・技術・ノウハウの承継 ・従業員の雇用維持 ・資金調達・創業者利益の獲得 ・個人保証の解消 |
・人材の確保 ・技術力・ノウハウの獲得 ・事業展開を多角化 ・コストの削減 |
譲渡企業(売り手)のM&Aのメリット
譲渡企業(売り手)のメリットとしては、主に以下が挙げられます。
技術・ノウハウの承継
独自ノウハウや技術を持つ中小企業は多いですが、後継者不在などの理由により事業承継が難しければ廃業を選択しなければなりません。
廃業という選択した場合、培ってきた技術やノウハウはすべて失われてしまいますが、M&Aであれば買収側へ引き継ぐことができます。同時にこれらを習得した優秀な従業員も引き継げるので、買収側にとっても大きなメリットといえるでしょう。
従業員の雇用維持
中小企業の経営者は、長年支えてくれた従業員を家族のように考えていることも多いです。実際にM&Aの実施時に従業員の雇用維持を希望条件に挙げる企業は非常に多くみられます。
M&Aでは従業員の雇用も譲受側へ引き継ぐことができ、株式譲渡の場合は契約を結びなおす必要もありません。信頼できる譲受企業へ自社あるいは事業を引き継ぐことで従業員の雇用維持および安定化が叶います。
資金調達・創業者利益の獲得
M&Aは事業承継や事業の成長・発展を目的とする以外に、資金化を目的として成長した事業を売却するケースもあります。実際、主力事業に資金を注力するため、黒字の事業を売却するケースも多いです。
自社や事業を売却すれば(現金)利益をで得ることができ、株式譲渡であればオーナー経営者、事業譲渡の場合は会社が受け取ります。
なお、オーナー経営者は売却対価の一部を退職金として受け取ることが認められており、事業譲渡の場合でもまとまった資金を得ることが可能です。
個人保証の解消
中小企業が金融機関などから融資を受ける場合、経営者が債務の連帯保証を負っているケースが多いです。それが事業承継時の足かせとなり、なかなか実行できないケースも少なくありません。
M&Aによる事業承継の場合、買収企業が引き継ぐことで個人保証を解消することができるので、引退を考えている経営者にとって大きなメリットとなります。
譲受企業(買い手)のM&Aのメリット
譲受企業(買い手)のメリットとしては、主に以下が挙げられます。
人材の確保
人材確保を目的としてM&Aを行う譲受企業も非常に多くみられます。新規採用によって人材を確保することもできますが、有資格者が業務に必要な業種の場合は難しいのが現実です。
特に、調剤薬局・病院・建設業・運輸業など業務を行ううえで有資格者が必要な業種の場合、一度に人材を獲得できることで業績向上や事業規模の拡大を図ることができます。
譲渡側企業のスキルと経験を持つ優秀な人材を一度に獲得できることは譲受企業の大きなメリットといえるでしょう。
技術力・ノウハウの獲得
事業を成長させるためには技術やノウハウが不可欠ですが、競合相手がいる場合それよりも優れていなければ市場での生き残りが厳しくなります。
ですが、技術やノウハウの取得には研究や教育など長い時間とコストが必要であるため、自社の力だけでは取得時に市場動向が変化している可能性もあるでしょう。
M&Aであれば譲渡側が持つ技術やノウハウをそのまま取得することができ、それに必要な許認可や特許なども引き継ぐことができます。
買収側にとって技術やノウハウの取得にかかる時間とコストを大幅に削減できることは、非常に大きなメリットといえるでしょう。
事業展開を多角化
多角的な事業展開ができれば、収益の拡大が図れるだけでなくリスク分散にもつながります。しかし、自社で新規事業を始めるとなれば市場でのシェアを獲得するための時間とコストがかかるうえ、必ず成功するわけではありません。
M&Aを活用すればすでに軌道に乗った事業を取得できるため、自社で新規事業を始める場合に比べるとスムーズな多角化が可能になります。
また、譲渡企業はその事業のノウハウを持っているため、自社の既存事業とのシナジー発揮により多角化が達成しやすいというのもメリットです。
コストの削減
自社と同業種の企業とM&Aを行った場合、仕入れ・発注・輸送費用などのコスト削減が可能です。コスト削減のメリットは商流が似ているほど大きくなり、その分の利益増加を見込むことができます。
また、M&A後に経営効率の改善を図ることで、人件費や研究費などのコストが削減できる点もメリットです。関連業種とM&Aを行う場合は、製造から販売までを一貫して事業展開することも可能となり、事業領域拡大にもつながります。
M&Aにおけるデメリット
M&Aにはメリットだけでなくデメリットもあるため、生じうるデメリットを事前に把握しておかなければ満足度の高いM&A実現は難しくなるでしょう。M&Aにおける主な注意点・デメリットには以下があります。
譲渡企業(売り手)のM&Aのデメリット | 譲受企業(買い手)のM&Aのデメリット |
---|---|
・従業員の労働条件・労働環境悪化の可能性 ・希望の売却先が見つからない ・取引先からの反発・契約打ち切り ・会社文化の相違 |
・経営統合に時間がかかる ・人材の流出 ・収益化できるか不確実 ・相乗効果は短期的には現れにくい |
譲渡企業(売り手)のM&Aのデメリット
譲渡企業(売り手)のデメリットとしては、主に以下が挙げられます。
従業員の労働条件・労働環境悪化の可能性
M&A後、譲渡(売り手)企業の従業員は譲受企業(買い手)の人事制度に則るかたちになります。中小企業のM&Aでは譲受企業(買い手)のほうが規模が大きいケースがほとんどなので、雇用条件はよくなることが多いといわれますが、悪化する可能性がないとは言い切れません。
従業員の労働条件・労働環境悪化して離職につながれば、M&A後の事業運営にも支障をきたすおそれもあるため、従業員の雇用条件については譲渡(売り手)と譲受企業(買い手)でよく話し合っておくことが大切です。
希望の売却先が見つからない
売却の準備を進めていても、譲受先(買い手)企業がみつからなければM&Aを行うことはできません。譲受先(買い手)企業は「この会社(事業)を買収することで将来どのくらいの利益を見込めるのか」を価値判断とします。
そのため、自社の希望条件に合った譲受先(買い手)企業がなかなかみつからないケースもあるのがM&Aのデメリットです。譲受先(買い手)企業がみつかるかどうかは、市場動向なども影響するため売却のタイミングによっても左右されます。
譲受先(買い手)企業を効率的に探すためには、できるだけ早い段階から専門家へ相談して戦略をたてて進めていくことが重要です。
取引先からの反発・契約打ち切り
M&Aによって自社を売却するということは、これまで付き合いのあった取引先からみれば経営者が変わるため不安に思うこともあるでしょう。
中小企業の場合は経営者の個人的な付き合いから取引が続いているというケースも少なくないため、経営者が変わることで反発が起きたり契約が打ち切られたりする可能性も考えられます。
ですが、譲受先(買い手)企業は取引先を含めて企業価値を考えることもあるため、M&Aによって離れてしまわないよう丁寧な説明と引き継ぐが必要です。
会社文化の相違
M&Aでは異なる企業同士が統合するため、互いの企業文化や慣習が大きく違うとM&A後の統合作業(PMI)がうまくいかず、マネジメントに支障をきたす可能性もあります。
M&A後の統合作業(PMI)の成否は、シナジー効果にも影響する重要な要素です。あまりにも企業文化が違うとM&A後の統合作業(PMI)が失敗する可能性が高くなるため、企業文化の違いは許容範囲なのかという点を考えたうえでM&Aを進めていく必要があります。
譲受企業(買い手)のM&Aのデメリット
譲受企業(買い手)のデメリットとしては、主に以下が挙げられます。
経営統合に時間がかかる
M&Aは成立すれば終わりではなく、経営統合後のシナジー効果が十分発揮されたり、事業が拡大・成長して初めて成功したといえるものです。
ですが、異なる企業同士が一つになるため、統合作業の進め方を間違えば期待していた効果が得られないだけでなく、時間とコストだけを費やす結果になりかねません。
譲受企業(買い手)側は経営統合にはある程度の期間が必要であることを念頭に置き、基本合意の段階からどのように進めていくかを検討しておき計画的に進めることが重要です。
人材の流出
スキルやノウハウを持つ優秀な人材の確保を目的としてM&Aを行う譲受企業(買い手)も多いですが、経営統合後の企業文化の変化や経営方針の転換などにより、譲渡側(売り手)の従業員が流出する可能性もあります。
キーマンとなる人材が流出してしまうと事業運営に支障をきたすおそれもあるため、事前にしっかり説明をし丁寧な引継ぎを行うことが重要です。
収益化できるか不確実
M&Aで業績好調な企業や事業を取得しても、必ずしも収益化できるとは限りません。M&A後に市場環境が大きく変化したり、譲渡側(売り手)企業の簿外債務や偶発責務などにより売上が圧迫されたりする可能性もあります。
市場環境の変化を正確に見抜くことは難しいですが、簿外債務や偶発責務のリスクはデューデリジェンスの徹底で最小にとどめることができるので、しっかり調査して譲受を決定する必要があります。
相乗効果は短期的には現れにくい
M&Aは統合後にシナジー効果(相乗効果)が十分発揮されることで、本来の目的を達成できるものです。
しかし、企業文化や慣習が異なる企業同士がひとつになるためには当然時間がかかるため、短期間でシナジー効果が現れることはほとんどありません。
譲受側(買い手)はその点を理解しておき、中長期で取り組むことを見越してM&Aを実施することが必要です。
M&Aにおける注意点
M&Aは多くのメリットが期待できる一方でリスクもある方法です。ここでは、M&Aにおける注意点を3つ紹介します。
情報漏えい
M&Aでは、財務・人事・ノウハウなどさまざまな情報を相手先企業へ開示しなければなりません。これらの秘密情報がM&A成立前に万一漏えいすれば、企業価値を大きく損ねる恐れがあります。
売却側企業にとっては、M&Aを検討しているあるいは進めている段階でも情報漏えいが起こらないよう注意することが重要です。
売却を行う予定だという情報が第三者へ伝われば、取引先や従業員が離れてしまうリスクもあるため、社内でM&Aを検討する段階から情報共有は重要な人物に限定するなど、細心の注意を払って進めていく必要があります。
また、M&A仲介会社や相手先企業へ情報を開示する際は、必ず秘密保持契約書を締結し、万一情報漏えいが起こった場合の責任所在を明らかにしておくことも重要です。
簿外債務や粉飾などの発覚
買収側企業はM&Aによる簿外債務の引継ぎや粉飾決算の発覚リスクがあるため、デューデリジェンスを徹底して行うことが重要です。売却側企業からは交渉前に資料(情報)を開示されていますが、それらがすべて正確であるとは限りません。
もしM&A後に簿外債務の引継ぎや粉飾決算などが発覚した場合、状況によっては自社の経営に大きく影響を及ぼすため、財務・法務・人事・ビジネス・ITなど、さまざまな分野を調査したうえでM&A実行を判断する必要があります。
また、M&Aの最終契約書には表明保証事項を必ず入れておくことも重要です。ただし、表明保証があってもすべてが担保されるわけではないため、デューデリジェンスをしっかり行ったうえで最終決定を行う必要があります。
競業避止義務
M&Aの競業避止義務は、売却側企業がM&A対象と同一の事業を買収側の隣接地域で一定期間行うことを禁ずる取り決めです。競業避止義務は買収側企業が不利益を被るのを避けるために、一般的にその内容が最終契約書に記載されます。
競業避止義務が及ぶ期間は原則として20年間ですが、売却側企業・買収側企業とが協議のうえで自由に決めることが可能です。
事業譲渡スキームを用いた場合は注意が必要であり、最終契約書に定めていなくとも会社法21条により競業避止義務を負います。
M&Aのプロセス・流れ
M&Aを行うための手続きは、大まかに以下の流れで進みます。M&Aの手法や目的によって細かな手続きは異なりますが、まずは大まかな流れを知っておくとよいでしょう。
①M&Aの目的・方向性を明確化する
M&Aの相手探しなどを始める前に、M&Aの目的・方向性やM&A後のビジョンなどを明確にしておくことが重要です。M&Aを行う目的によって相手先企業は同業種・異業種のどちらが適しているかが違ったり、相手先への希望条件の優先順位がつけやすくなったりします。
M&Aの目的・方向性をはじめに明確化することで、相手先候補がみつかりやすくなり交渉時もスムーズに進みやすくなるため、具体的な準備を進める前にしっかり検討しておくことが重要です。
②M&A仲介会社を選定する
M&Aは条件の交渉や契約、法務・税務・労務に関する手続きなど、自力で成約させるのは非常に難しいため、M&A仲介会社などの専門家へサポートを依頼すると効率よくかつ安全に進めていくことができます。
M&A仲介会社によって得意とする業種や規模が違うため、実績やサポート範囲などと併せて確認して決めるとよいでしょう。
また、担当アドバイザーとはM&A完了まで一緒に進めていくため、無料相談などを利用して人間性や相性を確認しておくことも必要です。
③買い手を探す
買い手を探す際は、M&Aの目的を意識しながら相手選びの条件を決めることが大切です。「同業種のみ」というように始めから範囲を狭めるのではなく、譲受側(買い手)の目的も考えながらまず広い視野で検討するとシナジー効果が見込めるよい相手先がみつかることもあります。
まず自社の弱みや補完すべき点、課題解決に必要な要素などを把握し、自社の目的や将来のビジョンに合った買い手候補を絞り込んでいくようにしましょう。
④トップ面談を行う
買い手候補が決まったらいよいよ本格的なM&Aの交渉へ進みますが、まずは秘密保持契約を締結し、情報漏えいがないよう取り決めておくことが重要です。
その後、双方の経営者同士が直接顔を合わせるトップ面談を行い、経営理念や企業風土、経営者の人間性など書面ではわかりにくい部分を確認します。
トップ面談では価額などの具体的な交渉はせず、M&Aの相手先としてふさわしいのかを判断し、信頼関係の構築を意識して臨むことが大切です。
⑤条件交渉・基本合意契約を結ぶ
トップ面談後に双方がM&A成立に前向きであれば、具体的な条件交渉を進めていきます。その際は自社の希望条件だけでなく相手の目的も意識しながら交渉を進めていくことが大切です。
売買の範囲・譲渡価格・従業員の処遇・今後のスケジュールなどさまざまな事項を決め、互いが大筋合意した時点で基本合意契約を結びます。
基本合意契約とは、この段階で合意した条件を書面で確認しておくための契約です。契約内容は、基本的な条件、誠実交渉義務、独占交渉権、守秘義務、スケジュールの概略などが記載されますが、一部事項を除き法的拘束力はありません。
⑥買い手のデューデリジェンスを受ける
デューデリジェンスとは売却側企業に関する調査のことです。ケースによって調査範囲は異なりますが、財務面・事業面・人事面・法律面・税務面・情報システム面などの分野を専門家が調査を行います。
買収側企業がデューデリジェンスを実施するのは、M&Aによるリスクはどの程度なのか、売却側企業に潜在的な問題点がないかなどを調査し、M&Aを実行すべきかを判断するためです。
また、デューデリジェンスによって買収価額や条件が妥当であるかも判断するため、調査結果によっては基本合意時点から価額が引き下げられる可能性もあります。
デューデリジェンスは買収側企業にとって重要な意味をもつため、譲渡側企業は誠実な姿勢で対応することが重要です。
⑤最終交渉と最終契約の締結
デューデリジェンス後、買収側企業がM&Aを行うと判断したら最終交渉へ進みます。この交渉は先に述べたデューデリジェンスの結果を踏まえて行われるため、条件や価額の変更があり得ることを売却側企業は理解してことが大切です。
そして、交渉したすべての内容(条件・価額・スケジュールなど)に双方が最終同意したら最終契約書を締結してM&Aが成立します。
最終契約書には以下のような内容が記載され、基本合意契約とは違い最終契約は法的拘束力を持つため、契約締結後に特段の理由なく一方的に破棄することは原則認められません。
- M&Aの対象内容と売却金額
- 現金及び株式などの引渡し、クロージング条件
- 表明保証
- 善管注意義務
- 役員・従業員の待遇
- 秘密保持
- 競業禁止義務
⑥クロージング実行
M&A成立後はクロージングを実行し、売却側企業(M&A対象の事業)の経営権を買収側企業へ移転させ、M&A対価の支払い手続きを行います。
通常、最終契約締結からクロージングまでは一定期間を空けることが多いですが、その間に売却側企業がクロージング条項(クロージングを行うための前提条件)を満たせなかった場合は延期あるいはM&A取引が白紙撤回されるため注意が必要です。
⑦経営統合作業(PMI)
最終契約書を締結して対象事業や株式の移動、譲渡代金の受け取りをもってM&A取引は完了となりますが、次はM&A後の事業運営に必要な経営統合作業を進めていきます。
経営統合作業はPMIとも呼ばれ、このプロセスがうまくいくかどうかがM&Aの成否にかかわるといわれる重要なものです。
経営統合作業(PMI)の目的は、経営戦略やビジョンの浸透・従業員のモチベーション維持向上・生産性向上・コスト削減などであり、譲渡側(売り手)と譲受側(買い手)が協力して進めていきます。
M&Aの手法ごとの特徴
M&Aの手法を大まかに把握できたところで、本章では買収・合併の2つをピックアップし、それぞれの特徴を順番に詳しく取り上げます。
企業提携 | 資本の移動を伴う (広義のM&A) |
企業買収 (狭義のM&A) |
買収 | 株式取得 |
株式譲渡 | |
株式交換 | ||||||
新株引受 | ||||||
事業譲渡 | 全部譲渡 | |||||
一部譲渡 | ||||||
合併 | 新設合併 | |||||
吸収合併 | ||||||
分割 | 新設分割 | 分社型分割 | ||||
分割型分割 | ||||||
吸収分割 | 分社型分割 | |||||
分割型分割 | ||||||
株式の持ち合い | ||||||
合弁会社の設立 | ||||||
資本の移動を伴わない (業務提携) |
販売提携 | |||||
共同開発・技術提携 | ||||||
OEM提携 |
買収の手法と特徴
買収時に用いられる主な手法には、以下の7つがあります。どの手法を用いるかによってM&Aで得られる効果や必要な手続きなどが大きく異なるため、それぞれの特徴を理解したうえで自社に最適な手法を選ぶことが重要です。
株式譲渡
図解:株式譲渡
株式譲渡とは、株式の売却により株主の地位を譲る行為です。株主が代わるのみであるため、基本的に会社の事業に変化は生じずに続きます。そのため、M&A後も経営に影響を与えにくい点がメリットでしょう。
経営者個人が株式譲渡を行えば株式の売却益を得られるため、リタイア後の生活費に充てられる点も大きな特徴です。中小企業のM&Aの多くは株式譲渡が採用されており、ポピュラーな手法といえます。なお、かかる税金は、所得税(譲渡所得)が約20.315%です。
事業譲渡
図解:事業譲渡
事業譲渡とは、会社の事業を譲る行為です。株式譲渡と異なり譲渡する範囲を決められる一方で、複雑な手続きが求められます。買収側企業からすると希望する事業のみを手に入れられるうえに、売却側企業にとっても手放したい事業のみを売れる点がメリットです。
中小企業のM&Aでは、株式譲渡に次いでメジャーな手法です。かかる税金は、法人税が約30%とされています。
会社分割
図解:会社分割
会社分割とは、対象の会社を既存の会社あるいは新設する会社に分割する行為であり、権利義務は分割した会社に引き継がれます。
吸収分割と新設分割の2種類があり、吸収分割は事業を既存の会社に引き継ぐ手法、新設分割は事業を新設した会社へ引き継ぐ手法です。
会社分割は組織再編のために採用されるケースが多く、経営資源を再分配することができます。
新設分割
新設分割の主なメリットとしては以下があります。
- 資産や契約などの引継ぎを容易に行える
- 資本準備金・資本剰余金を引継げる
- 一定の要件を満たすと資産の含み益は課税されない
- 現金ではなく株式も対価にできるため資金の準備が必要ない
その一方で、以下のようなデメリットが生じうるため実施時はよく検討することが重要です。
- 債権も合わせて受け継いでしまうリスク
- 手続きが複雑であり多くのコストや時間がかかる
吸収分割
吸収分割とは、会社の権利義務の一部もしくは全部を別会社(既存会社)に移転する行為です。新設分割とは違い、新たな会社の設立を伴わない点に特徴が見られます。なお、メリットやデメリットは新設分割の場合と相違がありません。
株式交換
図解:株式交換
株式交換とは、完全子会社になる会社の発行済株式すべてを完全親会社になる会社に渡す行為です。これにより、完全親会社になった会社と完全子会社になった会社との間に100%の支配関係が生じます。つまり、株式交換は、100%の株式を保有する完全親子会社を誕生させるために採用されるM&A手法です。
株式を譲る際は、買収側企業が自社株式を発行するため、たとえ資金がなくても支配関係を構築できます。ただし、売却側企業のオーナーからすると売却益を獲得できない点に注意しましょう。なおかかる税金は、所得税(譲渡所得)が約20.315%です。
第三者割当増資
図解:第三者割当増資
第三者割当増資とは、資金調達のために第三者に新株を引き受ける権利を与える行為です。取引先や普段から取引のある金融機関などに権利を与えるケースが多いため、縁故募集とも呼ばれます。
第三者割当増資は、業務提携をしている相手企業との関係を良好にする目的や、経営状況が悪く株価が低いことで通常の増資が難しいときに対策を講じる目的などで採用されます。
なお、第三者割当増資はあくまでも増資であり、売買ではなく譲渡の損益が出ないために課税はありません。
TOB
TOBとは「Take Over Bid」の略称であり、日本語表記では「株式公開買い付け」です。事前に「買付期間」「買付株数」「買付価格」などを公開したうえで、対象の株式を保有する株主に売却を促しつつ、取引所外株式を買い付ける方法をさします。
TOBの実施によってもたらされるメリットは、主に以下のとおりです。
- 大量の株式を効率よく買収できる
- 買収価格を宣言して行うために予算が立てやすい
- 予定数の株式を買収できなければ取引を柔軟にキャンセルできる
これに対して、TOBでは、以下のようなデメリットの発生が問題となるケースも存在します。
- 市場価格よりも高額で買い取る必要がある
- 買収防衛策や競合他社の介入により買収に失敗する可能性
MBO
MBOとは「Management Buyout」の略称であり、日本語表記では「経営陣買収」です。企業の経営陣が投資ファンドや金融機関などから資金調達を行ったうえで、既存の株主から株式を買い取って自社の事業部門を取得しつつ、経営権を取得する行為を意味します。
MBOの実施によってもたらされるメリットは、主に以下のとおりです。
- 経営の効率化・迅速な意思決定を実現できる
- 従業員の一体感を強められる
- 後継者問題を解決したうえで事業承継を果たせる
- 敵対的TOBから自社を守れる
これに対して、MBOの実施では、以下のようなデメリットの発生が問題となるケースも存在します。
- 既存株主から反発を受けて対立するリスク
- 経営体質が変化せず市場への対応力が衰えるおそれ
- 融資を受けることで債務を抱える
合併の手法と特徴
2つ以上の会社が経営統合によって1つの会社になる「吸収合併」と、設立した新会社に当事者である複数の会社を経営統合させる「新設合併」の2種類があります。
吸収合併
合併では、法人格が残る会社を「存続会社」、法人格が消滅する会社を「消滅会社」と呼びます。これを吸収合併に当てはめると、消滅会社をA社、存続会社をB社と捉えることが可能です。吸収合併を行うと、A社の株主とB社の株主はB社の共同株主となり、最終的にB社のみが残る点に大きな特徴があります。
吸収合併の実施によってもたらされるメリットは、主に以下のとおりです。
- 経営統合の効果を早期に獲得できる
- 周囲に対等な立場によるM&Aのイメージを与えられる
- 事業に必要な権利義務を存続会社に包括的に引継げる
- 株式を対価にすれば買い手が資金調達する必要がなくなる
- 消滅会社に繰越欠損金があり適格合併であれば引継げる
これに対して吸収合併では、以下のようなデメリットの発生が問題となるケースも存在します。
- 株式譲渡などの買収手法と比較すると必要な手続きが多い
- 簿外負債や不要な資産を引き継ぐリスク
新設合併
すべての法人格を消滅させたうえで、新たに設立する会社に対して権利義務を承継させる手法です。つまり、吸収合併とは違い、既存のA社・B社はともに消滅会社に該当します。
新設合併を行うと、A社・B社の株主はともに新たに設立される会社(C社と仮定)の共同株主となり、最終的にC社のみが残る点に大きな特徴があります。また、新設合併のメリットやデメリットは吸収合併と似ていますが、会社設立に伴い、吸収合併と比較してより大きなコストがかかる点も特徴的です。
そのほかにも、新設合併には特有のデメリットが多いことから、実際には吸収合併によるM&Aを選択する経営者の方がほとんどです。
M&Aの企業価値評価(バリュエーション)
M&Aで用いられる企業価値評価(バリュエーション)は大きく3種類あり、それぞれ違った特徴があります。手法によって企業価値が変わることもあるため、自社にあった評価方法を用いることがポイントです。
手法 | 特徴 | メリット | デメリット |
コストアプローチ | 評価時点の正味財産に着目 | ・客観的であり算出が容易 ・資産・負債を明確化できる |
・株式相場が反映されない ・市場収益性を加味しにくい |
インカムアプローチ | 将来の収益性に着目 | ・収益力を反映できる ・固有性質を加味できる |
・恣意性が入りやすい ・評価方法が非常に難しい |
マーケットアプローチ | 類似会社の市場相場に着目 | ・取引相場に近い ・トレンドを反映できる |
類似会社選択が困難 |
コストアプローチ
コストアプローチは、純資産に着目して対象企業の価値を評価する方法です。主な手法には「時価純資産価額法」「簿価純資産価額法」「時価純資産+営業権法」の3つがあり、M&A実務では「時価純資産+営業権法」が多く用いられています。
シンプルかつ簡単な計算方法で客観性の高い評価ができる点が特徴ですが、株式市場相場を反映できない点がデメリットです。ですが、時価純資産に営業権を加えることで対象企業の収益性をある程度反映させることができます。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチは、企業と業種・事業内容が類似する上場企業を選び、企業価値を相対的に評価する方法です。
主な手法には「市場価額法」「類似業種比準法」「類似会社比準法(マルチプル法)」「取引事例法」があり、比較対象となるのは上場企業あるいは実際のM&A成約事例であるため、メリットとしては株式市場相場やトレンドなどが反映される点が挙げられます。
ですが、マーケットアプローチによる企業価値評価は類似の上場企業があることが前提です。中小企業の場合は規模感が大きく異なるため評価が難しいことも多く、そもそも同じ事業を行っている企業がないベンチャー企業などには不向きといえます。
インカムアプローチ
インカムアプローチは、企業の将来見込まれる収益性に着目して企業価値を評価する方法です。主な手法には「配当還元法」「収益還元法」「DCF法(ディスカウンティドキャッシュフロー法)」があります。
将来の収益性だけでなく企業の固有性質を反映できるメリットはありますが、事業計画などをベースに収益性を計算するため恣意性がはいりやすく評価が難しい方法です。
実際のM&Aで多く用いられるのは「DCF法(ディスカウンティドキャッシュフロー法)」ですが、そのほとんどは大企業のM&Aであり、中小企業のM&Aで用いられることはあまりありません。
M&Aで売却を成功させるためのポイント
M&Aで売却を行う際は、以下のポイントを意識して進めると成功率を高めることができます。
M&A仲介会社選びには時間をかける
M&Aを成功させたければ、M&A仲介会社選びに時間をかけると良いです。M&Aの手続きをサポートしてくれるM&A仲介会社の依頼先には、どのようなことでも相談できるような相手を選ばなければなりません。つまり、担当者には話しやすさ・知識量・経験などが必要です。
上記の判断は実際に話してみなければわからないため、まずは相談してみることをおすすめします。セカンドオピニオンとして利用できるM&A仲介会社もあるため、少しでも相談先に不安があれば納得できる専門家を探し直すのもよい方法です。
②従業員や取引先には適切な時期に丁寧に説明する
従業員や取引先には、適切な時期にM&Aを丁寧に説明することが大切です。M&Aが成約していない段階で情報を広めすぎると、社内や取引先が混乱します。これにより、従業員が退職したり取引先に取引を断られてしまったりなど、会社経営に悪影響が及ぶケースも珍しくありません。
場合によっては、M&Aに相手側が難色を示し、途中まで順調に進んでいても交渉が急に破談になるケースも存在します。したがって、従業員や取引先にはM&Aの実施が確定した後で説明を行うと良いでしょう。
また、M&Aと聞いただけで不安に思う方もいるため、目的・得られるメリットなどを理解してもらえるまで丁寧に伝えることが大切です。
③自分だけでなく関係者全員のメリットを考える
M&Aを行うなら、自分だけではなく関係者全員のメリットを考えることが成功の近道といえます。M&Aは自社を大きく変える行為であるため、さまざまな条件を自分の希望どおりにしたいと考えがちです。しかし、自分だけの利益を追求してしまうと、M&Aが成約する可能性が低下します。
せっかく良い相手が見つかっても交渉がまとまらなければ破談となってしまうため、相手側のM&Aを行う目的を理解したうえで、自分の譲れない条件も意識しながら交渉を進めると良いでしょう。
このときに、従業員や取引先のメリットまで考えると、M&A後に自社が発展する可能性が高まります。自社の現状を把握したうえで、できるだけ多くの人が喜ぶようなM&Aを進めることがポイントです。
④自社にふさわしい相手先企業を見つける
M&Aの候補先として、自社にふさわしい相手先企業を見つけるのが大切です。候補先の基準は以下のとおりです。
- シナジー効果が生まれやすい
- 相互補完できるM&A、戦略上重要な役割を果たせる
- 相手先の企業文化が似ている
M&Aの条件によっては本来の目的を果たせなくなってしまう場合があります。そのため、できるだけ早い段階で相手企業の実態を把握し、企業実態や将来の統合効果を検討するなど、専門家に依頼して自社にふさわしい相手先を見つけるようにしましょう。
PMIを念入りに遂行する
M&Aで売却を成功させるためには、PMIを念入りに遂行しましょう。PMIとは、Post Merger Integrationであり、M&A後の統合プロセスをさす経営用語です。
経営の視点、業務の視点、意識の視点から企業文化の違いを乗り越え、高い水準でのプロジェクトマネジメントやシナジーの発揮を推進しなければ、M&Aの成功とはいえないでしょう。
M&Aの検討段階からアフターM&Aに関してのプランニングを行い、自社の社員のモチベーションを高めることに注力するようにしましょう。
M&Aにかかる費用
M&Aを行うためにはさまざまな費用がかかり、案件探しの費用やサポートを依頼する専門家への費用もそのひとつです。どの程度の費用が必要かを事前に把握しておかなければ、想定以上の費用がかかってしまいM&A後の事業運営に支障をきたす可能性もあります。おおよその費用をみていきましょう。
中小企業のM&Aでは仲介が大半
M&Aを効率的に実施するためにM&Aアドバイザーへ依頼する方が増えていますが、M&AアドバイザーにはFA(ファイナンシャルアドバイザー)と仲介があります。
FAへ依頼する企業は、利害関係者が多い上場企業同士のM&Aで利用されることが多いです。すでに交渉先が決まった時点でFAに依頼することが一般的です。
FAは売り手または買い手どちらかの立場で依頼者の利益を最大化するために助言を行うことがメリットとなります。その反面、お互いの利益を主張するため交渉がまとまりにくいとい一面があります。
一方、仲介は中堅・中小企業のM&Aで利用されることが多いです。仲介では売り手、買い手双方の立場に立ち双方の利益の最大化やバランスを重視します。M&Aの検討や交渉先探し〜クロージング、PMIまでサポートがあり効率的にM&Aを進めることができます。また、中堅・中小企業では従業員の雇用継続を前提としていることが多く、友好的なM&Aが一般的なため、両者のニーズや事情を把握し交渉を進めていきます。そのため、中堅・中小企業のM&Aでは仲介が利用されることが多いです。
M&A仲介会社の費用
M&A仲介会社の提供するサービスは、M&Aの仲介です。M&A相手候補を見つけるマッチングサービスをはじめ、譲渡企業と譲受企業の間を中立的かつ客観的に取り持って、M&Aを成約させるための業務を手掛けます。
このときに、仲介会社はM&A当事会社の片方の利益を追求せず、あくまでも双方の条件をすり合わせながら利益のバランスを考えたM&Aの成約を目指します。双方経営陣の同意のもとで進行する友好的なM&Aを行うためにも、M&A仲介会社を利用した取引を行うと良いでしょう。
M&A仲介会社に依頼する際は、費用が必要です。詳しい報酬システムはM&A仲介会社によって異なりますが、代表的には以下のような内容の費用が挙げられます。
手数料名 | 相場 | 備考 |
相談料 | 3,000円~1万円 | 正式な依頼の前にM&Aの相談を行うための手数料 |
着手金 | 20万円~200万円 | M&A仲介会社に依頼をする際に支払う手数料 |
中間金 | 30万円~200万円 | M&Aの基本合意契約を締結した際に支払う手数料 |
成功報酬 | 売却額の5% | M&Aが成約して最終契約を結んだ際に支払う手数料 |
リテイナーフィー | 20万円~100万円/月 | M&A仲介会社に毎月支払う手数料 |
デューデリジェンス費用 | 10万円~200万円 | デューデリジェンスの際にかかる調査費用 |
出張などの費用 | 実費 | 現地への出張費など業務実行にかかる費用 |
上記の中から、M&A仲介会社が規定している費用を支払う仕組みです。支払金額に不安があるなら、M&A成約時のみ費用が発生する完全成功報酬制を採用する仲介会社への依頼をおすすめします。
なお、成功報酬以外の費用は、M&Aが成約しない場合でも返ってこないケースがほとんどであるため注意が必要です。安心してM&Aを進めるためにも、事前にどれほどの報酬額になるのか詳しい見積もりを出してもらうとよいでしょう。
M&Aプラットフォームの費用
M&Aプラットフォームとは、インターネットを介して案件探し(マッチング)やM&Aの手続きを行えるサービスです。M&Aを検討している企業は会員登録を行うことでサービスを利用できます。
基本的には案件探しや相手先との交渉などは自身で進めていくため、M&A仲介会社に支援を依頼した場合に比べると費用を抑えられる点がメリットです。
その反面、情報漏洩のリスクやある程度のM&A知識が必要になる点がデメリットとなるため、特に情報漏洩に関してはしっかり対策しておく必要があります。
M&Aプラットフォームのサービス内容や利用料金はさまざまであり、運営しているM&A仲介会社に交渉などを依頼できる(別途料金が発生)ところもあるので、利用する際はサービス内容や料金を比較するとよいでしょう。
M&Aの税務と会計処理
M&Aにはさまざまな手法があり、それぞれ発生する税金が違ってきます。ここではM&Aで発生する税務を解説します。
株式譲渡で発生する税金
株式譲渡の手法を用いる場合は、原則として株式を取得する側に税金はかかりません。一方で、売却側の個人あるいは法人に対しては、以下のような税金が発生します。
個人の株式譲渡 | 法人の株式譲渡 |
・所得税:15%(一律) ・復興特別所得税(2037年まで):0.315% ・住民税:15%(一律) |
・法人税:約30% ※税率は企業規模により異なる |
個人の株式譲渡
株式譲渡にあたって、オーナーである経営者、つまり株主である個人が株式譲渡した際に利益が発生した場合、その利益に課税されます。個人の場合は、所得税や復興特別所得税、個人住民税がかかるでしょう。
所得税(15%)、復興特別所得税(0.315%)及び住民税(5%)を合わせると、株式譲渡の譲渡益がプラスであった場合、20.315%の税金が課せられます。譲渡所得は、収入額から取得費と委託手数料などを差し引いて計算します。
- 課税所得=収入額-(取得価額+委託手数料など)
この課税所得に税率(20.315%)を乗じたものが納税額です。収入額から引くものは、株式などの取得価額、株式などを取得するために借りた負債にかかる利子、株式譲渡に支払った委託手数料、その他の経費、管理費、手数料など各種経費にかかる消費税などが挙げられます。
株式の譲渡所得は分離課税になるので、他の所得とは分離して納税額を計算します。
また譲渡する会社の役員などであった際、株式譲渡代金の一部を、退職金として支払うケースもあるでしょう。退職金とすると、譲渡代金が実質的に下がるため、譲渡所得が減少し、譲渡企業は退職金を費用として計上できるため、法人税の課税所得を下げられます。
- 収入金額(源泉徴収前の金額)- 退職所得控除額)×1/2=退職所得
退職所得の計算では、このように実際の収入金額の1/2のみが、所得金額とされるため、株式の譲渡金額の一部を退職金として支払うと、節税が可能になるといったメリットがあります。
しかし、適正水準を超えた役員退職金の過大部分があった場合は、税務調査で損金不算入となる可能性もあります。
退職所得の計算には退職所得控除額があり、勤務年数によっても変わるため考慮が必要です。退職慰労金として支給できる金額は、法務面・税務面から制限があるため、この点も留意が必要です。
このようにM&Aで発生する税務には注意しなければならない点があるため、懸念がある際は専門家に確認を依頼するとよいでしょう。
法人の株式譲渡
法人が株式譲渡すると、株式譲渡益について法人税が課税されます。法人税は、個人の所得税とは異なり、総合課税方式で株式譲渡益以外の損益と通算されるルールです。
税率は一定ですが、企業の規模により税率が異なります。合計金額に対して、所得金額に応じ29~42%の課税率で法人税が課税されます。
事業譲渡で発生する税金
事業譲渡では、譲渡側と譲受側それぞれに以下のような税金が発生します。
譲渡側に発生する税金 | 譲受側に発生する税金 |
・法人税:約30% ※税率は企業規模によって異なる |
・消費税:10%(軽減税率対象の場合は8%) ※消費税は譲渡側が預かり納める ・不動産取得税:固定資産税評価額の4% ・登録免許税:固定資産税評価額の2% |
譲渡側に発生する税金
まず事業譲渡の際に発生する消費税は、譲渡対象の中に課税資産が含まれている場合に発生します。消費税の納付は譲受側が負担しますが、納付するのは譲渡側になります。
そのため、事業譲渡でも、譲渡側が預かり納付するのです。消費税は、課税対象となる資産と課税されない資産があり、主なものは以下のとおりです。
- 課税資産:土地以外の有形固定資産、在庫など
- 非課税資産:土地、有価証券、債権など
消費税率は、国税である7.8%と地方税となる2.2%の合計10.0%です。
次に、事業譲渡で譲渡益が発生した場合、法人税が課税されます。また事業税、地方法人税、法人住民税も課されます。譲渡損益の計算は以下です。
- 譲渡損益=譲渡金額 - 譲渡資産の簿価
上記の計算で売却金額の方が大きい場合は譲渡益となり、簿価の方が大きくなると譲渡損となります。ここでの計算された譲渡損益は、当該事業年度での事業上の損益と通算され、法人税が計算されます。
譲受側に発生する税金
事業譲渡で譲受側にかかる税金は、消費税、不動産取得税、登録免許税が挙げられます。消費税は譲受側が負担します。
計算された消費税を譲渡側に支払いますが、請求される金額をしっかりと確認したうえで支払うようにしましょう。
事業譲渡の対象資産に事業所や工場、作業場などの不動産が含まれている場合は、不動産取得税がかかります。不動産取得税は、固定資産税評価額の4%です。
不動産所得をした場合、登記変更を行う必要があります。その際に、登録免許税もかかります。登録免許税は、土地、建物それぞれ固定資産税評価額の2%で計算されるでしょう。
M&Aの会計処理
M&Aでは、仲介会社への依頼報酬・税務のほか、会計面でも費用が発生します。M&Aを行う際の会計処理方法は、個別会計・連結会計・税務会計の3種類が代表的です。
個別会計とはM&A当事会社の双方が仕訳を行うもので、多くの会計基準が設けられています。また、連結会計とは、親会社・子会社を同一グループとして捉える会計処理です。税務会計とは、税法にのっとって企業の課税所得を決めるために用いる会計をさします。
M&Aによる売り手企業の従業員への影響
M&Aを行えば当時会社の従業員は少なからず影響を受けますが、具体的にはどのようなものがあるのでしょうか。ここでは、M&Aによる売り手企業の従業員への影響を解説します。
雇用契約
M&Aにおける雇用契約の引継ぎは、用いるM&Aスキームによって変わります。株式譲渡のように包括承継されるスキームの場合は、雇用契約もそのまま譲受企業(買い手)へ引き継がれます。
それに対して、個別承継となる事業譲渡では雇用契約を引き継ぐか否かをM&Aの交渉時に決定し、譲受側(買い手)が引継ぐ場合は各従業員から同意を得たうえで契約の結びなおしが必要です。
給与
従業員の給与条件は、M&A後も同条件で引き継ぐかたちで交渉が進められるケースがほとんどです。
ただし、前述のように事業譲渡の場合は個別承継となり雇用契約は結びなおしとなるため、給与面で変更が生じる可能性もあります。
退職金の扱い
退職金の扱いも給与など同じく、株式譲渡などの包括承継スキームの場合はそのまま譲受企業(買い手)へ引き継がれるため、従業員に対する影響はありません。
一方で事業譲渡の場合は、雇用契約の際に退職金の額などが変更される可能性もあり、退職金の支払いは以下2つの方法のいずれかで行われます。
- M&A前に譲渡企業(売り手)側で退職金を一度清算して従業員へ支払い、M&A後の退職金は譲受企業(買い手)の規定に従う
- 譲受企業(買い手)が退職金を引き継ぎ、従業員の退職時にM&A後の退職金とを合算して支払う
なお、譲受企業(買い手)が退職金を引き継ぐ場合は、その分を売却価格から割引くのが一般的です。
労働環境
M&A後は譲受企業(買い手)の経営方針に従い、ともに事業を進めていくことになります。新しい人間関係や業務内容など、譲渡企業(売り手)従業員にとって環境の変化は大きいといえるでしょう。
異なる企業同士が1つになるため、最初のうちは混乱が生じたり不安に感じる従業員がでたりする可能性もありますが、従業員にとってはキャリアアップにつながる機会でもあります。
M&A案件を探す方法・手段
M&Aを成功させるうえで、自社にふさわしい相手先企業とのマッチングは必要不可欠です。しかし、自社のみで相手先探しを行うと、ネットワークが限定的であったり、情報漏えいのリスクが高かったりするため好ましくありません。
M&Aのマッチングを行う場合、一般的には以下のような専門家・サービスを利用するケースが多いです。
- 金融機関
- 弁護士・公認会計士
- マッチングサイト
規模の大きい金融機関ではM&Aのサポートを手掛けていますが、上場企業などの大企業を対象とするケースも多く、中小企業では十分サポートが受けられないおそれがあります。また、弁護士・公認会計士は法務・税務・会計の専門知識を有しているものの、全体的なM&Aサポートは受けられない可能性が高いです。
マッチングサイトでは、比較的安価で豊富なM&A案件から候補先を探せますが、プロセス自体のサポートを手掛けていないケースが多いです。
以上のことから、M&Aの相手探し・具体的な手続き・成約に至るまで、すべてのプロセスをサポートしているM&A仲介会社の利用が適しています。
M&Aの歴史
ここでは、日本のM&Aの歴史を簡単に紹介します。
戦前
戦前の日本ではさまざまな企業が積極的にM&Aを実施しており、財閥の拡大・業界再編などに大きく寄与する経営戦略の1つと認識されていました。
1800年代後半から1900年代にかけては、旧財閥系の企業がM&Aにより事業拡大を図るケースが多くみられ、カネボウの前身である鐘淵紡績も、M&Aを用いていた企業の1つです。
昭和初期になると、第一次世界大戦による特需のほか、関東大震災に伴う火災が甚大な影響を及ぼしたことで安全性の高い電力に対する需要が向上したことなどにより、敵対的買収を含めてM&Aが積極的に実施されるようになります。
電力業界ではM&A合戦が繰り広げられ、組織提携が幾度となく実施され、結果的には5つの電力会社に集約されました。
そして1930年代頃には、国策として経営破綻した企業(新興財閥)の再建が目指されたM&Aの実施されるようになり、このような戦略的なM&Aは、当時の日本が昭和恐慌から素早く脱出できた要因の1つといえます。
戦後
第二次世界大戦後になると状況は大きく変わります。GHQ(連合軍総司令部)の方針により財閥解体が進められたため、持ち株会社および株式交換など株式の移転を容易にするM&A手法が全面的に規制されました。
しかし、1980年代半ば頃になると、急激な円高・国内株式市場の長期的な好調維持・土地高騰などを受けて、日本企業が外資系企業を買収するM&Aが多く実施されるようになります。
その後のバブル崩壊以降は、事業再編・大型企業倒産を処理する手法として、政府によりM&Aの実施が援助されました。
近年
近年は大企業だけでなく中小企業でもM&Aが広く活用されるようになりました。その背景には、M&Aが経営戦略として有効であることが認知されるようになったことや、M&Aのイメージが向上したことなどが考えられます。
また、事業承継問題の解決手段としてM&Aが有効であると認知されるようになったことや、国の支援制度やM&A仲介会社などの支援機関が増えたこともM&Aの活性化につながった要因のひとつです。
M&Aの実施件数も年々増加傾向にあり、後継者問題の解決・事業拡大・競争激化による業界再編など、さまざまな目的で行われています。
M&A市場の今後の動向
かつては「身売り」や「乗っ取り」といったマイナスイメージの強かったM&Aですが、近年は有効な経営戦略のひとつとして認知されるようになり、大企業だけでなく中小企業でも活用されるケースが増えてきました。
また、M&Aの実施件数は右肩上がりで推移しており、以下の要因により今後もさらに増加するものと考えられます。
生産年齢人口の減少
生産年齢人口とは生産活動の中心となる15〜64歳までの人口を指し、労働の担い手としてだけでなく社会保障を支える存在でもあります。
しかし、近年は少子化が進み、総務省の「人口推計ー2023年(令和5年)3月報ー」によれば、2023年3月1日時点での総人口は1億2449万人(概算値)であり、前年同月と比較して61万人減少(△0.49%)しています。
そのうち生産年齢人口は約7420万8000人で、前年同月と比べると29万6000人の減少(△0.40%)となりました。生産人口のピークだった1995年は8716万人で当時の総人口の約7割を占めていましたが、2023年は約6割と1割ほど低下しています。
現在、少子化の進行は加速する一方であり、このままでは労働力(人材)不足が多くの企業にとって課題となるのは避けらないでしょう。そのため、今後は人材確保のためにM&Aを行うケースが増えると考えられます。
参考:総務省「人口推計 - 2023年(令和5年)3月報 -」
業界寡占化の進行
寡占化とはサービス・商品などがかかわる市場が少数の大手企業で支配されることをいい、寡占化された市場は上位数社が売上げの大半を占めることとなります。
企業が寡占化を進めるのは人材採用やコスト面などでのメリットを享受し、利益確保の体制を構築するためです。実際に寡占化が進んでいる業界にはコンビニ・調剤薬局・ドラッグストア・介護などがあります。
寡占化が進めば市場の上位に位置する企業はメリットが大きくなりますが、中小企業にとっては価格競争の激化などで厳しい状況を強いられるケースが多いです。
今後もさまざまな業界で寡占化は進むとみられており、その手段してM&Aを行うケースや中小企業が業界で生き残るためにM&A(売却)を行うケースも増えると考えられます。
ベンチャー企業によるM&Aの積極的な活用
国内のM&A実施件数は右上がりで推移しており、そのうちベンチャー企業がEXITの手段として行うケースも年々増えています。これまではベンチャー企業のEXIT手段としてはIPOが主流でしたが、最近はM&Aを選択する割合も高くなり、IPOとM&Aの選択割合は差が縮まってきました。
経済産業省もスタートアップはイノベーションを担う重要な存在であるとし、今後は新たなビジネスが次々に創造されることが期待されています。
アメリカではEXIT手段としてベンチャー企業のM&Aが盛んに行われていますが、日本はまだまだEXIT手段のうちM&Aが占める割合は低いのが現状です。しかし、今後は日本でもベンチャー企業のM&Aが増えるものと考えられます。
参考:経済産業省「大企業×スタートアップのM&Aに関する調査報告書 (バリュエーションに対する考え方及びIRのあり方について)」
M&Aの成功事例
SOMPOケアによるエネルギア介護サービスの子会社化
2023年7月、有料老人ホームやグループホームの運営など介護事業を手掛けるSOMPOケアは、広島県のエネルギア介護サービス全株式を取得して完全子会社化したと発表しました。子会社となったエネルギア介護サービスは、老人ホームの運営やデイサービス・訪問介護などを手掛ける企業です。
本M&Aにより、 SOMPOケアはエネルギア介護サービスの最終株主である中国電力と協力し、中国地方での老人ホームやグループホームなど高齢者向け施設の開発などを進めていくとしています。
参考:SOMPOケア株式会社「株式会社エネルギア介護サービスの株式取得(子会社化)に関するお知らせ 」
ココナラによるポートエンジニアリングの子会社化
2023年6月、スキルマーケット「ココナラ」を運営するココナラは、ポートエンジニアリングを完全子会社化すると発表しました。
子会社となったポートエンジニアリングは、ITフリーランスエンジニアのエージェントを手掛ける企業です。ITフリーランスエンジニアの案件を専門とするプラットフォーム「Futurizm」を運営しています。
ココナラは個人向けスキルマーケットのほかに、法事向けの「ココナラビジネス」や業務委託紹介事業「ココナラエージェント」なども展開しており、ポートエンジニアリングの子会社化はITフリーランス向け業務委託事業の拡大が目的です。
参考:株式会社ココナラ「ポ―トエンジニアリング株式会社の株式の取得に関するお知らせ」
TBSホールディングスがやる気スイッチグループHDを子会社化
2023年6月、TBSホールディングスは、個別指導塾や英会話スクールを展開する、やる気スイッチグループホールディングスの子会社化を発表しました。
やる気スイッチグループは、個別指導塾「スクールIE」のほか、英語・英会話「WinBe」や英語学童保育「Kids Duo」などを全国展開しています。
TBSホールディングスは中長期計画のなかで知育・教育事業を重点分野に位置づけており、本M&Aもその一環で行われたものです。今後は、TBSホールディングスのコンテンツ制作力やクリエイティブ力、やる気スイッチグループの教育ノウハウや顧客基盤を掛け合わせることで、新たな映像教材の共創など知育・教育事業を展開していくとしています。
参考:株式会社TBS ホールディングス「株式会社やる気スイッチグループホールディングスの株式取得(連結子会社化) に関するお知らせ」
島津製作所による仏Biomaneo,SASの子会社化
2023年5月、島津製作所は、フランスのBiomaneo,SAS(以下 Biomaneo社)を完全子会社化すると発表しました。島津製作所は精密機器や医療機器、計測器などの製造を手掛ける業界大手企業です。
子会社となったBiomaneo社は、臨床分野に強みを持つソフトウェア・試薬キット会社です。島津製作所の欧州子会社とBiomaneo社は、2020年から新生児スクリーニング用のソフトウェア販売で提携していました。
本M&Aによって島津製作所は臨床向けソフトウェアと開発人材の取得し、メドテック事業の強化を進めるとしています。
参考:株式会社島津製作所「臨床規制対応ソフトウェア・人材の獲得で、病院向けに質量分析計を拡販へ 仏ソフトウェア会社Biomaneo社を買収」
ワキタによるニチイケアネットの子会社化
2023年3月、建設機械や土木の販売・レンタルを行うワキタは、ニチイケアネットを完全子会社化すると発表しました。
子会社となったニチイケアネットはニチイホールディングス傘下で、福祉用具の販売・レンタル、関連用品のカタログ製作を行う企業です。
近年、ワキタは福祉用具のレンタル卸業も手掛けており、本M&Aによって当該事業のエリア拡大を図るとしています。
参考:株式会社ワキタ「株式の取得(子会社化)に関するお知らせ 」
M&A用語集
M&Aを進めるうえではさまざまな専門用語がでてきますが、略称も多いため、を表す言葉なのかを知っておくと役立つ場面も多いです。ここでは、主なM&A用語とその意味を紹介します。
アーンアウト条項
アーンアウト条項とは、M&A後の一定期間に譲渡側企業が最終合意で定めた目標を達成した場合、譲受企業が追加で対価を支払うことを約束するものです。
アーンアウトは、譲受企業のリスクを軽減し、当時会社間の買収価額に対する認識の溝を埋めるために活用されます。
エスクロー
エスクローとは、M&Aや不動産取引など高額の支払いが生じるケースにおいて、第三者で中立立場の金融機関が間に入って対価の決済を行うサービスのことです。
M&Aにおいてエクスローを利用する場合は、当事会社双方が同意した金融機関へM&A対価(譲渡代金)の一部を一定期間預け、最終契約で定めた条件が達成した際に譲渡企業へ代金が支払れます。
エクスローは決済の安全性が確保され、譲受側にとってはリスクを分散・軽減できる点がメリットであり、アーンアウト条項を定めたM&Aで使用されることが多いです。
エグゼキューション
エグゼキュージョンとは、交渉先企業が決定した後のM&A工程の手続き実行・管理を行うことです。M&A手法の選定や企業価値評価、各種契約書の作成、交渉やデューデリジェンスのサポートなどがエグゼキュージョンに含まれます。
オーガニックグロース
オーガニックグロースとは、企業が持っている経営資源によって既存事業の自律的な成長や売上向上を目指すことです。
また、オーガニックグロースに対し、M&Aで他社の事業やサービスを取り込むことで成長を目指す方法をM&Aグロースといいます。
カーブアウト
カーブアウトとは「切り出す」「分裂する」であり、M&Aでは事業の一部や子会社を切り出すことを指します。
主に、複数事業を行う企業が選択と集中を行う目的や、将来性のある事業を親会社あるいは外部企業のリソースを活用して成長促進を図る目的で活用される方法です。事業を対象とするカーブアウトでは、事業譲渡あるいは会社分割の手法が主に用いられます。
株主間協定
株主間協定とは、事業運営の方法などについて当該企業の株主同士で取り交わす契約のことです。株主間協定の効力が及ぶのは契約した当事者間のみであり、他の株主へは効力がありません。
株主間契約とも呼ばれ、M&Aにおいては株式譲渡や第三者割当増資によって複数の限定株主が企業運営を行うケースで、株主間協定を結ぶ場合があります。
キャピタルゲイン
キャピタルゲインとは、企業の保有する株式・債権・不動産などの資産を売却した際の譲渡益(差益)を指します。
たとえば、保有している土地や株式の価格が購入時よりも高くなったタイミングで売却した場合、その差益がキャピタルゲインです。反対に、売却により損失が生じた場合をキャピタルロスといいます。
クロスボーダー
クロスボーダーとは国をまたいで行う取引を指し、クロスボーダーM&Aという場合は譲渡側か譲受側のいずれかが海外企業であるM&Aのことです。
日本国内企業が海外企業を買収したクロスボーダーM&Aを「In-out型」と呼び、反対に海外企業が日本国内企業が買収したクロスボーダーM&Aを「Out-in型」と呼びます。
詐害行為
詐害行為(さがいこうい)とは、債権者を害すると知っているにもかかわらず、債務者が自己財産を減少させることです。
たとえば、破産申立て直前に特定債権者へ支払いや返済を行なったり、預金の隠ぺいや認められた自由財産以上の現金を所有したりなどが詐害行為にあたります。なお、債権者には詐害行為取消権があり、詐害行為があった場合はそれを取り消すことが可能です。
ショートリスト
ショートリストとは、ロングリストの企業を事業内容や財務状況などの一定条件から数社に絞ったリストのことです。
ショートリストへの絞り込み時に基準となる要素には、事業内容や財務状況のほかにノウハウ・技術力・地域シェア・などがあります。
シナジー効果
シナジー効果とは、複数企業(あるいは事業)が統合したり提携したりすることにより、各々が単独で事業活動をする以上の効果が得られることです。
相乗効果と呼ぶこともあり、代表的なものに売上シナジー・コストシナジー・財務シナジーなどがあります。また、シナジー効果は当事者双方にメリットがあることが前提であり、片方のみに利点があるケースはシナジー効果が発揮されたとはいえません。
チェンジ・オブ・コントロール(COC)条項
チェンジオブコントロール条項とは、M&Aなどで経営権が移動した場合において、支配権の変動が契約解除事由あるいは契約内容の制限事由となる条項です。
チェンジオブコントロール条項は、Change of Controlの頭文字を取り「COC条項」と表されたり、資本拘束条項とも呼ばれたりします。
取引先の保護および自社の情報・技術やノウハウの流出防止が主な目的であり、M&Aにおいては譲受側のリスクヘッジとして取り決めておくケースが多いです。
ネームクリア
ネームクリアとは、秘密保持契約の締結後、譲受候補先企業に対して会社名や詳細な事業内容などの情報を開示することです。
初期段階で使用されるノンネームではわからなかった詳細情報を知ることによって、譲受候補企業はM&A交渉を進めていくかどうかを本格的に検討することができます。
ノンネーム
ノンネームとは、譲渡企業の社名を伏せた状態で業種・大まかな事業内容・地域などを要約した資料です。「一枚もの」と呼ばれることもあり、譲受候補先企業へM&A交渉を打診する際に使用します。
買収監査(デューディリジェンス)
買収監査(デューディリジェンス)とは、M&Aの譲受企業が譲渡企業から提出された資料の正確性や、買収リスクの有無および程度を把握するために行う調査のことです。
M&A実務では「DD」と表されることもあり、財務・税務・法務・人事などの分野を各専門家(弁護士・会計士・税理士など)が調査します。
買収監査(デューディリジェンス)の結果は、譲受企業がM&A実行の可否や買収価額の妥当性を判断する材料となるものです。
特定事業承継税制
事業承継税制は、事業承継を行う企業(または個人)が一定要件を満たしている場合に受けられる贈与税・相続税の納税猶予制度です。また、事業承継税制が適用された企業(または個人)が事業承継後に一定要件を満たしている場合は、猶予された税金の納付が免除されます。
特定事業承継税制は2027年までの時限措置であり、2018年の税制改正によって設けられました。従来の事業承継税制は「一般措置」と表されることもあり、適用を受けた企業(または個人)は事業承継では発行済株式総数2/3を上限として贈与税が100%、相続税は80%、納税が猶予されます。
対して、特定事業承継税制は「特例措置」と呼ばれることも多く、一般措置と異なる点は猶予対象が発行済全株式であることや相続税でも100%の納税猶予が受けられる点です。
表明保証
表明保証とは、M&Aのクロージング時点や最終契約締結時点での、譲渡企業または事業部門の一定事項(法務・財務・事業など譲受企業から開示された情報)が真実かつ正確であると表明、その内容を保証するものです。
M&Aでは譲渡企業が譲受企業に対して表明保証を行い、一般的には最終契約書を締結するときに譲受企業へ提出します。表明保証の内容に虚偽があった(表明保証違反)場合、譲受企業は損害賠償請求を行うことが可能です。
ブリッジローン
ブリッジローンとは、短期間限定で受けられる融資のことです。資金調達までに時間が要する場合のつなぎとして使用されることから「つなぎ融資」と呼ばれることもあります。
ブリッジローンは3カ月程度の短期間限定であり、一般的な融資に比べると金利は高めですが、原則として保証人なしで融資を受けることが可能です。
プライベートエクイティ
プライベートエクイティとは、未公開株式(未公開企業)や不動産を投資対象とするファンドや投資家を指します。また、M&A実務においては「PE」と表される場面も多いです。
プライベートエクイティの形態にはさまざまなものがあり、不動産や未公開株式への純投資だけでなく、成長が見込まれるベンチャー企業への投資やMBOサポートなどもあります。
プロラタ方式
プロラタ方式とは、複数融資を受けている企業の返済能力に変化があり、リスケジュールが必要となった場合に借入残高に応じて融資元への返済額を決定する方法です。
各融資元への返済額は、借入残高あるいは無担保分の借入残高に比例して決定され、前者を「残高プロラタ」といい、後者を「信用プロラタ」といいます。プロラタ方式が採用される目的は、返済計画の見直し時に融資元に不公平が生じさせないためです。
ベンダーデューデリジェンス
ベンダーデューデリジェンスとは、M&Aの譲渡側が売却を行う前に外部の専門家へ依頼して自社の財務・法務・人事などを調査することです。
譲渡企業がベンダーデューデリジェンスによって、M&A時に論点となり得る問題や情報を洗い出し、事前の改善などに役立てることができます。
法人格否認の法理
法人格否認の法理とは、紛争解決などの特定事案において、法人格の独立性を否定して企業と株主等の背後者を一体とみなすことをいいます。
当該企業の独立性を認めると構造的に不平等である場合は、企業の法人格を相対的に否認するという考え方であり、会社法3条に関連したものです。
マネジメントインタビュー
マネジメントインタビューとは、企業(事業)の将来性・経営課題・各種リスクなどについて、代表(社長)に行うヒアリングのことです。
マネジメントインタビューは、デューデリジェンスでわからなかった情報を補完する目的で行われ、質問内容によっては従業員を対象に行われることもあります。
劣後ローン
劣後ローンとは、一般債権よりも元利金の返済優先度が低い無担保貸出債権のことです。劣後ローンは返済の優先順位が低い代わりに、金利が高めに設定されています。
もし融資先企業が倒産した場合は、先にほかの債務を弁済して資産が残っていれば劣後ローンの返済へ充当されますが、債務超過に陥っている状態では返済される可能性は極めて低いです。
劣後ローンはそのような性質から株式資本に近いといわれ、金融機関や保険会社などが資金調達に劣後ローンを使用した場合は自己資本への一部組み入れが認められています。
ロックアップ
ロックアップとは、M&A後の一定期間は譲渡側の経営陣が事業運営に参画することを定めた条項です。
M&A実行後の事業運営が滞るようなリスクを軽減することが主な目的であり、キーマン条項とも呼ばれます。
ロングリスト
ロングリストとは、マッチング初期段階で作成される候補先企業の一覧にまとめた資料を指します。
ロングリストには、はM&A成立の可能性がありシナジー創出に期待できる企業が数十社リストアップされるケースが多いです。
ADR
ADRとは裁判外紛争解決手続を指し、英語のAlternative Dispute Resolutionの略称です。ADRは、民事上の紛争を解決するために、当事者間に中立で公正な第三者が入ります。
M&Aで用いられるのは「事業再生ADR」と呼ばれるもので、債務超過に陥った企業の事業再生をサポートする制度です。
事業再生ADRでは専門家が債権者と債務者の間に入り、税負担の軽減や返済期間・返済額の調整などを行い、早期に事業再生が実現できるよう支援します。
CA
CAとは秘密保持契約を指し、M&Aプロセスのなかで知り得た相手企業の秘密情報を漏洩しないこと、およびM&A以外で使用しないことを約束するものです。
M&Aプロセスでは、交渉前のネームクリア時、基本合意の締結時、最終契約の締結時など、CAを締結するタイミングが複数回あります。
DDS
DDSとは、債権者(金融機関など)が保有している債権をほかの債権へ転換することであり、正式名称は「Debt Debt Swap」です。
DDSは金融資金策のひとつで、主に中小企業などを対象としています。転換先となるのは劣後ローンや劣後債(劣後社債)が一般的であり、債務者に返済猶予期間を与えて再建の実現性を高めるケースが多いです。
DIPファイナンス
DIPファイナンスとは、経営難に陥り会社更生または民事再生の手続きを行なった企業に向けた融資方法であり、経営再建を進めるための短期資金調達手段のひとつです。
「Debtor-in-Possession」の頭文字をとったもので、再建を進める企業自身が債権者から資金を調達することを指し、日本では主に政府系の金融機関がDIPファイナンスを扱っています。
EV/EBITDA倍率
EV/EVITA倍率は、対象企業のバリュエーションを行う際の指標として使用されます。EVはEnterprise Valueの略称で企業の株式の時価総額に債務を加えたもの、一方のEVITAは企業のEBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortization)から債務を除いたものです。
この指標を使用することで、より実態に近い企業価値を知ることができ、EV/EVITA倍率が高いほど企業価値が高いと判断することができます。
EPS
EPSとは、企業の全体収益と発行済み株式数とを比較した場合の1株あたりの利益を表す指標です。
M&A実務では、譲受側が買収対象企業の業績分析を行う場合などで用いられ、企業の収益力と成長性を評価することができ、EPSの値が大きいほど「稼ぐ力」が高い企業であると判断されます。
EVA
EVAとは、企業の実利から投資家の必要最低限の利益分を差し引いたものであり、企業の経営効率をみる際に使用される指標です。
EVAによって、対象企業がどれだけの付加価値を投資家に対して生み出しているかを判断することができます。
IRR
IRRとは、投資で得たキャッシュフローから初期費用などを考慮して求めた収益率、つまり「内部収益率」のことです。
投資額に対するリターンの効率性や利回りをみることができ、収益性が高いほどIRR値が大きくなり、有利な投資対象であると判断されます。
LBO
LBOとはレバレッジドバイアウト(Leveraged Buyout)を略した呼び方であり、M&Aの譲渡企業の予測キャッシュフローや現在の保有資産を担保に借入をして買収する方法です。
手元資金が十分にない場合でも買収を行なえるメリットである一方、M&A後の事業運営が失敗すれば返済が滞るリスクもあります。
LOI
LOIとはLetter of Intentを略した呼び方であり、譲受候補企業から譲渡企業に対して出される意向表明書のことです。
LOIは買収意向があることを伝える書面であり、法的な拘束力はありません。また、必ず提出しなければならない書面ではないため、省略される場合もあります。
MBO
MBOとは、経営陣または従業員が自社を買収することです。「Management Buy-Out」の頭文字をとった略称であり、自社の発行済み株式を既存株主から取得することで経営権を移転させます。
MBOは、上場廃止や事業承継、そのほか売却を伴う改革・再建などで用いられることが多い手法です。
PBR
PBRとは、株価純資産倍率「Price Book-value Ratio」の略称であり、株価が割高・割安どちらなのかを判断する指標です。
PBRは株価を1株あたりの純資産(直前の本決算期末時点)で割った値であり、一般的に1より大きければ当該企業の「のれん」が市場に評価されていると考えることができます。
PER
PERとは、株価利益倍率「Price Earnings Ratio」の略称であり、PBRと同様、株価が割高・割安どちらなのかを判断するために用いる指標です。
PERの値が小さいほど株価は割安とみることができ、大きくなるほど割高であると判断することができます。
PMI
PMIとは、M&Aのクロージング後に行う統合プロセスのことです。「Post Merger Integration」の略称であり、M&A効果の最大化と事業運営の円滑化を目的として行います。
意識・経営・業務の3つをそれぞれ統合し、シナジーなどのM&A効果を最大化させることが目的です。
SPA
SPAとは「Stock Purchase Agreement」の頭文字をとった略称であり、株式譲渡契約書を指します。
SPC
SPCとは特別目的会社のことであり、英語表記の「Special Purpose Company」の略称です。SPCは、企業の保有資産(不動産など特定のもの)を流動化して資金調達するために設立する会社であり、営利目的での事業活動を行うことはできません。
TMK
TMKとは特定目的会社のことであり、ローマ字表記「Tokutei Mokuteki Kaisha」の略称です。TMKは資産流動化を目的として設立する会社であり、事前に基づいた資産流動化計画の範囲内でしか業務を行うことはできません。
TSA
TSAとは「Transition Service Agreement」の略称であり、M&Aクロージング後の移行期間における事業サービスの管理方法や責任所在を定める契約です。M&A実施前に展開していた事業サービスについて取り決めるものであり、主にカーブアウトを伴うM&Aで活用されます。
M&Aに関するよくある質問
本章では、M&Aを検討する経営者の方から挙げられる質問とその回答を取り上げます。いずれもM&Aを進めるうえで知っておくべき大切な項目なのでしっかり把握しておくようにしましょう。
①M&A成約までどれくらいの期間かかるか?
M&Aは、相手先企業を探して成立を目指して交渉を進めていきます。多くのプロセスを経るため、M&A成約までには半年から1年程度かかるといわれることが多いです。
ですが、希望条件や業種、実施タイミングなどによって相手先探しにかかる期間などが変わってくるため、3か月程度でスピード制約するケースもあれば1年以上の長期にわたりM&Aを進めるケースもあります。
また、M&A実施時の業界動向によって相手先探しにかかる時間などは大きく変わるため、M&Aの検討初期段階から準備を進めておきと、タイミングを逃さないことも成約期間短縮のポイントといえるでしょう。
②M&Aの決心がついていない状況でも相談できるか?
M&Aを視野に入れていても、それが最善なのかと悩むケースは少なくありません。M&A仲介会社はそのような状況でも相談することができ、自社にとってベストの選択肢は何かということも一緒にみつけることができます。
中小企業の場合、特に譲渡側企業であればM&A自体がはじめてであることが多いため、相談時にM&Aの決心がついていないケースは多いものです。ですが、早めに相談することでベストな選択肢がみつかりやすくなるので、M&Aの決心がついていなくとも一度相談してみることをおすすめします。
③M&Aによる譲渡にあたり準備すべきことは?
はじめに準備すべきなのは、M&Aの実施理由・動機・優先的に実現したい条件を定めることです。これらを準備することで、M&A仲介会社などの専門家への相談・依頼や譲受先候補とのマッチングなどが円滑に進みます。
また、できる限り事前に自社の株式を集約しておくと、M&A実施期間の短縮につながるためおすすめです。株券を発行している企業であれば、株券の発行が適切になされているかも確認しましょう。
加えて、譲渡を検討する場合、相手側の買い手も同業・周辺企業となるケースが多いです。そのため、業界のM&A動向などの情報を収集し、買収ニーズが高いタイミングで譲渡を行うよう意識しましょう。
例えば、新聞・経済誌などの特集を読み、同業他社の買収・売却ニュースや新規上場・株価などの情報を把握しておくと、自身の業界の期待値が把握できます。
さらに、M&Aのデューデリジェンスでは、定款・決算書・商業登記簿謄本・株主名簿・取締役会(株主総会)議事録・関係当局からの行政指導の関連資料など、膨大な資料を準備・提出する必要があります。そのため、事前に月次決算・予実管理・原価計算を念入りに行っておくと円滑に譲渡しやすくなるのです。
④赤字経営や債務超過がある企業は譲渡できない?
たとえ赤字経営や債務超過がある企業であっても、将来性が見込めたりブランドを持っていたりするならば、M&Aにより譲渡できる可能性は十分にあります。そもそもM&Aで譲受側企業が重視するポイントは、赤字や債務超過が起こった理由や背景などです。
そのため、赤字経営(債務超過)の理由・背景をまとめておくと、改善・立て直しの余地があると感じら譲受先候補が現れる可能性があります。M&Aによる譲渡では廃業費用の削減・譲渡利益の獲得などのメリットが期待できるため、赤字経営を理由に諦めず、M&A仲介会社に相談し自社の譲渡可能性を探りましょう。
⑤M&A・事業承継の手法はどのようにして決めれば良い?
M&Aにはさまざまな手法が存在します。各手法によって期待できるメリット・想定されるデメリットなどの特徴は大きく異なるため、自社にとって最適な手法を選ばなければなりません。
また、事業承継の手法には大きく分けて親族承継・従業員承継・M&Aによる第三者への承継がありますが、これらもそれぞれ特徴が異なるため、M&A手法の決定と同様の注意が求められます。
とはいえ最適な手法を選択するには、業界の知識だけでなくM&A・事業承継に関する専門知識も必要となるため、M&A仲介会社などの専門家に相談して適切な判断を仰ぐと良いでしょう。
⑥M&A仲介会社と金融機関・士業事務所・公的機関の違いは?
近年はM&A仲介会社だけでなく、金融機関や士業事務所、事業引継ぎ支援センターなどの公的機関でも相談や支援業務を行っています。
金融機関はM&A専門部署を置いているところも増えていますが、士業事務所は法律や会計などをそもそも専門としているため経験や知識が十分でなかったりサポート範囲が限定されるケースも多いです。
また、事業引継ぎ支援センターなどの公的機関は交渉や仲介などは直接行わず、提携先への紹介までが基本なので相談から交渉、クロージングまでの支援は行っていません。
それぞれ強みやサポート範囲が異なるため、相談する際は自社がどのような支援を希望するかなども考えて決めるとよいでしょう。
⑦見せたくない書類は提出しなくて良いの?
M&Aでは譲受企業(買い手)へさまざまな書類を提出しなければならないため、なかには自社にとって不利になるような情報が含まれる書類もあるかもしれません。
ですが、故意にみせなかったり虚偽の申告をしたりすればトラブルのもととなり、譲渡価額の低下や不利な条件になるだけでなく、M&Aそのものが破談となることも考えられます。
M&Aは信頼関係が構築できなければ成立は難しくなるため、もし自社にとって不利になるような情報であっても必要なものは全て開示し、誠実に対応することが重要です。
⑧従業員への告知はいつ行えば良いの?
一般的に、従業員へM&Aを行っていることを伝えるのは最終契約後がよいといわれています。というのは、準備段階や交渉段階で告知してしまうと混乱や不安を招きかねず、従業員の離職やモチベーション低下につながる可能性があるためです。
どのタイミングで告知をするかは各社の判断にもよりますが、従業員へは「なぜM&Aを行うのか」「M&A後の雇用などはどうなるか」などを丁寧に説明し、M&A後の事業運営がスムーズに進むよう前向きに伝える必要があります。
⑨相談するタイミングはいつが良いの?
M&Aは成立するまで、半年から1年程度かかることが多いといわれています。満足度の高いM&Aを実現するためには、タイミングを逃さないよう戦略的に進めておくことがカギです。
ですので、相談するタイミングとしてはM&Aを意識し始めた早期の段階をおすすめします。早いうちから準備を進めておくことで、よい相手先がみつかった場合など機会を逃さずM&Aを行うことができ、結果として満足度の高いM&A実現につながりやすくなります。
M&Aの方法に関する相談先
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M&Aの方法まとめ
M&Aとは、「Mergers(合併)」and 「Acquisitions(買収)」の略称です。つまり、「合併と買収」の意味を持ち、経営戦略の1つに位置付けられています。
M&Aを行えばさまざまな経営課題を効率良く解決できるため、年々行われる件数が増加しています。会社経営に何らかのお悩みがある場合は、M&Aで解決できないかを検討すると良いでしょう。
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